2026年8月25日から9月21日まで、学生指導者として福田一斗さん、牧野夢希さんの2名をフランス🇫🇷へ派遣しました。
フランス柔道連盟からのご依頼を受け実施すりている本事業は、昨年度に続き2年目の実施となります。今回は、福田一斗さんから現地での活動について報告が入りましたので、紹介させていただきます。
はじめに
今回、フランス柔道学生派遣として、フランス各地の道場を訪問させていただきました。北部の町アミアンから、パリの東に位置するクロミエ、そして南西部のボルドーやその周辺の町を訪れました。行く先々で、現地の子どもたちや選手、指導者の方々と出会い、練習は勿論、指導を通してたくさんの貴重な経験をさせていただきました。
今回の派遣では、柔道を通して指導方法を学ぶだけでなく、日本とは違うフランスの柔道スタイルにも直接触れることができました。言葉も文化も違う環境で、どうすれば技術が伝わるのか。その試行錯誤した経験が、私を心身ともに大きく成長させてくれたと感じています。
また、柔道の時間以外にも、現地の方々が町を案内してくださり、地域ごとの特色や食文化を直接肌で感じることができました。正直に言うと、各地のごはんも毎日の楽しみでした(笑)。そしてなにより、柔道とその各地で出会った人々のおかげで得られた経験は人生の大きな財産となったと思っています。
羽田から
旅のスタートは、冒頭の写真の羽田空港です。ここからパリのシャルル・ド・ゴール空港までは、飛行機でおよそ14時間。ほぼ半日を機内で過ごす長旅で、日本とフランスの距離を改めて実感しました。
空港に到着すると、フランス柔道連盟のリリアンさんが迎えに来てくださいました。そこからフランス北部の町・アミアンへ向かい、この地域にあるリリアンさんのご自宅に、1週間ホームステイをさせていただきました。
到着したその日の夜には、ご自宅の庭でフランス流のBBQを開いてくださいました。テーブルには、ヨーロッパスタイルの窯で焼いたソーセージに、フランスのビールやブルーチーズなど、現地ならではのものがたくさんありました。



▲ 到着初日の夜、BBQで温かく迎えていただきました(BBQのソーセージと本場のブルーチーズ)
アミアン(Amiens)
到着の翌日からは、この地域の合同練習会に3日間参加し、アミアンのチームの選手たちと一緒に稽古を行いました。初日はまず練習に参加し、2日目と3日目は、一緒に派遣された牧野夢希と分担して、柔道の指導を担当しました。
▲ アミアンの合同練習会の様子
指導では、大内刈りの基本技術から、その練習方法、さらに応用までを扱いました。ここでまず組手の違いで苦戦しました。フランスの選手たちは、技術練習の段階から当たり前のように相手の背中をつかみにいきます。日本スタイルの正面の襟を持って組むところから教える必要があり、基本の中の基本を指導することに時間を取られ、戸惑ってしまいました。
そこで指導では、「日本ではまず正面の襟を持って柔道をする」という、大前提をおいて全体の指導をするようにしました。
技術指導を進めるうちに、うれしい変化もありました。最初は言葉の壁もあり、生徒たちとはどこか距離がありましたが、練習の後半には私自身もがんばって話しかけるようになり、だんだんと楽しくコミュニケーションが取れるようになっていきました。
さらに、初日は力任せに柔道をしていた生徒が、少しずつではありますが、日本のスタイルの組み方で取り組もうとしてくれるようになりました。その姿から、日本の柔道のスタイルが、現地でリスペクトされていることを感じることができました。
続いて訪れたアミアンの道場では、小学生のレッスンにも参加させていただきました。フランスの小学生のレッスンは、とにかく「楽しむこと」が第一。いきなり技の練習をするのではなく、体全体を使った運動から、少しずつ柔道の動きへとつなげていく流れになっています。
ただ、小学生が相手となると、英語ではなくフランス語でコミュニケーションを取らなければなりません。ここでは、言葉の壁を大きく感じました。それでも一緒に体を動かしているうちに、子どもたちのほうから身振り手振りで「この動きは、ウサギのまねなんだよ!」と教えてくれるようになりました。
言葉が完璧に通じなくても、一緒に体を動かせば気持ちは伝わる。コミュニケーションの本来のあり方を、小学生に改めて教えてもらった時間でした。

▲ アミアンの道場で、小学生のみんなと。壁には「Courage(勇気)」「Modestie(謙虚)」など、フランス柔道で大切にされている言葉が並んでいます
テルニェ(Tergnier)
次に、少し足をのばしてテルニェという町へ。ここでは1日だけ、柔道のイベントにゲストとして参加させていただきました。
1つ目の会場は小さな町の道場で、小学校低学年の子どもたちが中心の練習でした。柔道を始めたばかりの子も多く、初心者、それも小さな子どもたちに柔道の基本動作を教えることの難しさを痛感しました。
最初は、日本の小学生がウォーミングアップでするような動きをメニューに入れてみました。ところが、それすらも難しいということにすぐ気づきました。そこで、受け身を取り入れた遊びに切り替えたところ、子どもたちも楽しんでくれたようでした。
私たちにとっては当たり前の動きでも、初めての子にとっては大きなチャレンジです。「基礎の中の基礎」を教えることの大切さと難しさを、身をもって感じた時間でした。
1つ目の練習が終わると、柔道着を着たまま車に乗り込み、そのまま次の大きな道場へ向かいました。
2つ目の会場には、この地域で柔道を趣味として楽しんでいる方が、およそ150名も集まっていました。子どもから大人、年配の方まで、老若男女です。フランスに来てから、もっとも幅広い方々を対象としたレッスンです。
これまでのレッスンは年齢やレベルがある程度しぼられていたので、それに合ったメニューを組めば十分でした。しかし今回は、誰でも取り組めるメニューを提案しなければなりません。正直なところ、最初のウォーミングアップでは少し戸惑ってしまいました。
そこで、一人ひとりが自分のレベルに合わせて取り組めるよう、自重トレーニングを使ったウォーミングアップや、大内刈りの基本を教える内容に変更しました。その結果、どなたにとっても学びのある内容を提供できたのではないかと感じています。
練習のあとは、サインや写真撮影の時間もありました。少し恥ずかしかったのですが、筆ペンでサインを書くと、とても喜んでいただけました。柔道だけでなく、日本の文化そのものがリスペクトされていることを感じた瞬間です。

▲ 1つ目の会場となった町の道場(左)と約150名が集まった2つ目の会場(右)
クロミエ(Coulommiers)
次は拠点を大きく移して、パリの東に位置する町・クロミエへ。ここでは1週間ほど滞在しました。
初日は、現地の先生であるレミーさんに出迎えていただき、まずは練習に参加させていただきました。クロミエの道場には幅広い年代の生徒さんが通っていて、レッスンは年齢ごとに4つに分かれています。そのすべてに参加したので、練習時間は通しでおよそ5時間にもなりました。
移動の疲れもたまっていて、体力的には正直なかなか大変な一日でした。それでも、小さな生徒たちからは元気と柔道の楽しさを、選手や大人の方々からは柔道の奥深さを、現地スタイルの練習を通して改めて感じることができました。そのおかげで、最後まで乗り切ることができました。

▲ クロミエの道場での練習。壁には大きく「柔道」の文字が掲げられていました

▲ クロミエの道場のみなさんと、JUDOsポーズで記念撮影
翌日は、子どもたちがスポーツを始めるきっかけとなるイベントがあり、そのサポートとして参加しました。フランスでは9月に新学期が始まるため、この時期に地域のさまざまなスポーツクラブが一か所に集まります。日本でいえば、「習い事の合同説明会」のようなイメージです。
もちろん柔道のブースも大人気で、たくさんの子どもたちが入会を申し込んでいました。お話を聞くと、フランスでは、柔道を習うと心も体も強くなり、礼儀正しくなるため、教育の一環として子どもに柔道を習わせたいという保護者の方も多いそうです。
こうして地域の中に、柔道を始めるきっかけがきちんと用意されていること。それも、フランスの柔道人口が多い理由のひとつなのではないかと考えさせられました。

▲ 地域のスポーツクラブが集まったイベント会場(左)と、柔道クラブのブース(右)
その日の夜は、クロミエでホームステイをさせていただいていたアブドルさんが気をつかってくださり、日本食レストランに連れて行ってくださいました。久しぶりの日本食です!
お寿司と焼き鳥が、いつもの100倍おいしく感じられました。フランスにいる間、意外にも日本食が恋しいとは思っていなかったのですが、いざ目の前にすると体の芯まで染みわたり、急に恋しくなってしまいました(笑)。

▲ 久しぶりの日本食
翌日は、隣町のルベへ。本当に小さな道場で、この日から柔道を始めるような生徒さんたちと一緒に、柔道着を着て体を動かしました。
取り組んだのは、簡単なすり足や後ろ受け身といった、基本中の基本です。その様子を見ていると、私自身がすっかり忘れていた、初めて柔道着に袖を通した日のことを思い出し、感慨深い気持ちになりました。自分の柔道の原点を、思い出させてもらいました。

▲ ルベの道場で、柔道を始めたばかりの子どもたちと
その後クロミエに戻り、今度は柔道着ではなくトレーニングウェアで「Taiso」を行いました。Taisoは勿論、日本語の「体操」が由来で、フランス柔道連盟が扱う種目のひとつです。フランスでは、柔道着を着ずに柔道に似た動きを取り入れた、お年寄りの方を中心とするエクササイズのようなプログラムも、クラブの練習の一環として行われています。
参加者の中には、先日一緒に練習した生徒さんのおじいさまやおばあさまもいらっしゃり、顔なじみの方もだんだんと増えてきました。
メニューはチューブを使った運動が多く、参加者が自分で負荷を調整できる内容もたくさんあって、教える反面、勉強にもなりました。後半のストレッチでは、日本の柔軟体操や二人組でのストレッチが大人気で、ご年配の方々からも大変好評をいただきました。
ボルドー(Bordeaux)
クロミエでの日々を終え、フランスの新幹線ともいえる高速鉄道「TGV」に乗って、次の拠点であるボルドーへ移動しました。
ボルドーでは、この地域の強化クラブの練習に参加しました。会場には、かなりの数の選手が集まっていました。
フランスの選手の柔道は、やはりパワフルなスタイルが中心です。そのため、技術指導では苦戦する場面もありました。しかし、組み方や足のステップを基礎から順番に教えていくと、みなさん身体能力が高く、すぐに習得していきました。打ち込みや追い足の大内刈りも上手にこなしていて、上達の早い選手がとても多いと感じました。
乱取りでは、階級に関係なくたくさんの選手と組み合いました。この日に教えた足払いで実際に投げてみせる場面もあり、強化選手のみなさんと良い汗を流すことができました。

▲ ボルドーの強化クラブのみなさんと
翌日のお昼は観光をさせていただき、現地で人気だという豚肉のステーキをいただきました。ボリュームたっぷりで、肉汁があふれ出るステーキでした。
驚いたのは、まわりを見渡すと、平日のお昼からビールを飲んでいる方がたくさんいたことです。聞いたところによると、フランスでは在宅ワークの日などに、昼からビールを片手にランチを楽しむ方も多いそうです。食文化でもカルチャーショックを受けると同時に、心の健康を第一に考えるフランスの良さも感じました。

▲ 現地で人気の豚肉のステーキ
その日の夜は、ナンドさんの道場で3つのレッスンを担当しました。参加者は、選手から運動のために柔道を楽しんでいる方までさまざまで、ここでは足払いを中心に指導しました。
フランスの選手は、技をかけるときに常に相手と密着して投げようとします。そのため、相手と距離をとったまま投げる足払いには、とても驚いている様子でした。
なかなか上手くできない中でも、「一人で取り組める練習メニューはありますか?」と質問してくれるなど、みなさん本当に一生懸命取り組んでくれました。その姿を見て、もっと分かりやすい指導を考えられていたら、という反省点も見つかりました。
一方で、これまで自分の感覚だけで行っていた技術を、このレッスンを通して改めて理解し直すこともできました。

▲ ナンドさんの道場のみなさんと
ペリグー(Périgueux)
翌日は、車でペリグーという町へ移動しました。
移動の途中で、ボルドー名物のお菓子・カヌレをいただきました。現地では、カヌレは専門店でしか焼けないといわれるほど作るのが難しいお菓子なのだそうで、わざわざカヌレの専門店で買ってきてくださいました。
ラム酒の風味がしっかりと効いていて、甘さはかなり強めなのですが、どこか大人っぽい甘さ。本場のこだわりを感じる味でした。
移動はかなりの長旅で、ペリグーに到着したころには、夜になっていました。夕食には、現地で有名なステーキをいただきました。羊のミルクから作ったバターをつけて食べるのが、ここでは有名なのだそうです。
ボリュームもたっぷりで、脂もしっかりとのった一皿でした。フランスの地方都市の名物は、なかなか食べる機会がありません。幸せな「食トレ」になりました。


▲ 上:カヌレ専門店にずらりと並ぶカヌレ/下:ペリグーで食べた名物のステーキ
翌日の午前中には、大きな道場で、ペリグー地域の老若男女を対象とした柔道教室が開かれました。ここで私たちが担当したのは、寝技の指導です。足抜きを中心に、部分稽古を行いました。
これまで訪れたフランスの道場では、寝技の練習をする文化があまり見られないことが多くありました。そのため、実戦をまじえながら、立ち技から相手をつぶして寝技に移行するような内容には、とても驚かれました。ここは、とにかく質問の多い道場でした。
みなさんがとても情熱的に取り組んでくださったからこそ、すべての質問に答えきれなかったことが悔しく残りました。質問が出そうな内容は、事前に説明できるよう準備しておく。それが参加者全体の満足度につながるのだと学んだ一日でした。

▲ ペリグーの柔道教室の様子
リモージュ(Limoges)
続いて訪れたのは、リモージュです。ここでは組手を中心に指導し、日本の柔らかい柔道のスタイルを伝えることをテーマにしました。
肘を使った引手の引き方や、釣り手の立て方など、見た目は簡単そうでも実はとても奥が深い組手の技術を、一から教えていきました。生徒のみなさんは「日本の柔道はとても難しい!」と、かなり苦戦している様子でした。
それでも先生からは、「すぐにできなくても、知識として知っておくことに意味がある。難しいことをどんどん教えてほしい」とリクエストをいただきました。そこで、足技の連続技など、さらに難易度を上げた内容にも挑戦してもらいました。
正直に言うと、途中であきらめてしまうのではないかと思っていました。ところが生徒のみなさんは、まずは楽しむことを第一に、何度も挑戦し続けてくれたのです。続けることの大切さを教える側の私たちが逆に学ばせてもらいました。

▲ リモージュのみなさんと、JUDOsポーズで記念撮影
ビュクセロール(Buxerolles)
次に訪れたのは、ビュクセロールという町です。ここは、この地域のトップ選手が集まる道場で、たくさんの選手が練習に参加していました。
ここでは、寝技の噛みつきや、立技の組手からの大内刈りなど、かなり本格的な内容を指導しました。技術練習の間も、積極的に質問が飛んできたのはもちろん、選手同士で応用を考え、自分たちなりに改善していく姿も見られました。
レベルの高い選手たちは、一人ひとりが「勝つための考え」を持っています。だからこそ、やりとりの中から自然とディスカッションが生まれました。柔道の面でも、語学の面でも、自分自身が大きくレベルアップできていることを実感できた道場です。

▲ ビュクセロールの道場で、トップ選手たちとの練習
指導者研修会
そして最後は、南部地区全体という、かなり大きなエリアを対象とした指導者研修会です。ここではゲストとして、柔道の指導を担当させていただきました。
会場には、派遣の後半で出会った先生方も集まってくださっていて、フランスで行ってきた指導の総まとめのような、とても貴重な経験をさせていただきました。
参加者は指導者の方々なので、簡単なウォームアップやストレッチも入念に取り入れつつ、技術の内容もたくさん詰め込みました。現地の先生方は練習の様子をたくさん動画に撮影していて、その映像をもとに、それぞれの道場で研究や練習をされるそうです。
そのため、動画を見返したときにも伝わるよう、説明はずっと英語で行っていました。ところが途中で、「せっかく日本の方なのだから、日本語で説明してほしい」とリクエストをいただく場面もあり、日本語でも説明をしました。日本の柔道そのものへの敬意を、最後まで感じた研修会でした。

▲ 指導者研修会の会場(左)と、各地から集まった指導者のみなさんへの指導の様子(右)
おわりに
今回のフランス派遣を通して、日本の柔道、そして自分自身の技術を見つめ直すことができました。フランスの子どもたちや選手、指導者の方々に「教える」ために訪れたはずが、気づけば私自身がたくさんのことを「教わった」旅でもありました。柔道を通して、私自身にとっても大きな学びのある派遣になったと感じています。
基礎の中の基礎を伝える大切さ、言葉の壁を越えるコミュニケーション、相手に合わせて指導を組み立てる力、事前の準備とあきらめずに続ける力、そして感覚で行っていた技術を言葉にすること。どれも、実際にフランスの畳の上に立ったからこそ学べたことです。
また、フランスで得たこの経験は、今後、自分が柔道を運営していく立場になったときにも、必ず大きく生きてくると思っています。このような機会があれば今後もぜひ参加したいのはもちろん、柔道の良さを国際的に広めていく活動にも、積極的に取り組んでいきたいと思います。
Merci beaucoup!

