ミャンマー🇲🇲より【めんでん 柔道記 No.2】

JUDOsでは、海外で柔道指導者として活躍されている方々の声をお届けする「海外からの柔道指導だより」を掲載しています。

ミャンマー・ネピドーで柔道指導を行っている平沼大和さんからの活動報告です!

Please wait while flipbook is loading. For more related info, FAQs and issues please refer to dFlip 3D Flipbook Wordpress Help documentation.

テキストバージョンはこちら↓


めんでん柔道記
〜4,364km離れたミャンマーの地で🇲🇲〜

  作成者:平沼大和
めんでん:漢字表記でミャンマーのことを指す。

皆さま、ご無沙汰しております。ミャンマーで代表監督を務めております平沼です。日本の柔道界では、全日本柔道連盟の人事発表が行われたり、20024年のパリオリンピックの一部選手の発表、柔道マガジンの発刊と話題が溢れていましたね。
同じ時期ミャンマーでは、全国から総勢50名のコーチを集めて2週間みっちりセミナーを行いました。セミナーというと座学だったり、聞いているだけの印象がありますが柔道はやはり実践が1番ということでコーチの皆さんにも練習に参加してもらう形を取りました。幸い大きな事故や怪我もなく終えることができミャンマー柔道の発展の歴史の1ページになったのかなと思います。

さて、今回のテーマは前回の告知通り「東南アジア競技大会 SEA GAMEs」についてです。

東南アジア競技会 Southeast Asian Games (SEA GAMEs)

私がミャンマーに来た最大の目的は、東南アジア競技会Southeast Asian Game (以下SEA GAMEsと略す。)で金メダルを獲得するということでした。
結果から申し上げると、残念ながら金メダルへは後1歩届かず銀メダル1つ、銅メダル3つ、団体戦3位決定戦敗退という悔しい結果に終わってしまいましたが、以前の投稿(めんでん柔道記〜4,364km離れたミャンマーの地で🇲🇲)の通りミャンマーを取り巻く環境が厳しい中、健闘したのではないかと思います。


SEA GAMEs連盟のロゴ Wikipedia より引用

SEA GAMEsについて簡単に解説をすると、東南アジアにおいて2年に1度開催されるスポーツ競技大会のことを指します。国際オリンピック委員会の管轄のもと開催されているので「東南アジアのオリンピック」という位置付けです。
その歴史は大変古く、1959年にタイのバンコクで第1回大会が開催されてから今年で第32回。64年の長い歴史の持つ大会です。東南アジアにおいてこの大会への意気込みは大変強いもので4年に1度開催されるオリンピックよりも重要度や認知度が高く、その一例としてミャンマーの場合、大会前の約2年前から選手たちは選手村に住み込みで滞在するほどの力の入れようです。
住み込みの際には国から住居や食事、手当等の支援のもと活動しています。やはりSEAGAMEsは、国の発展の見せ所であったりイメージ戦略、経済戦略等のスポーツの枠を超えた意義も大いに含まれており国としても一大イベントとなっています。


第32回SEA GAMEsのロゴ  (第32回カンボジアSEA GAMEs 公式サイトより引用)

第32回大会の各国の成績と柔道競技の成績

先日開催されたカンボジアSEA GAMEの全競技の結果を考察していこうと思います。

グラフから読み取れるように、ベトナムが最も多くメダルを獲得しており、次いでタイが後を追う形になっています。第3位のインドネシアとメダル数を比較してみると上位2カ国とは大きな差があり、東南アジアにおいてこの2カ国が特にスポーツが盛んだと読み取れます。柔道競技においてもベトナムとタイが非常に優秀な成績を収めており、特にベトナムは International Judo federation (以下:IJFと略す。)の公式サイトにおいても81人の柔道選手が登録されており、その中でも-52kg級NGUYEN THUY選手は世界ランキング69位に位置していることはベトナム柔道の発展の一例でしょう。

一方で、私が監督を務めるミャンマーは、全体の8位に位置しており(柔道競技は7位)他の国と比べると少し遅れを取っている状態です。IJFの公式サイトにおいても10名の選手登録に留まっており、今後の活動期待がかかっています。

SEA GAMEsを終えて

選手としてではなく監督として迎えた試合は、当然のことながら非常にタフなものでした。自他共に心配になるほどの極度の緊張感。試合会場へ向かう際には、吐き気や眩暈。更には泣きそうになる程の状態に陥ったことを今でも覚えています。そんな緊張感が4日間続きました。その中で特に印象に残った出来事は、試合を終え畳を降りてきた選手と向き合う瞬間でした。前述の通り、選手たちは約2年間の住み込みでの稽古をし、全力を尽くしてきたことに異論の余地はありません。そんな人生の数ページをかけて取り組んで来て、結果が伴った選手と伴わなかった選手。そんな選手らの覚悟や己への自信を知っているからこそ、結果の如何に関係なく笑顔で選手を迎える以外の選択肢はありませんでした。
遂1年前までは選手として畳を降りる立場でしたが、そんな選手を迎える指導者の立場とでは見える世界も考えることも大きく異なり、指導者の重積さと残酷さを痛感するのと同時に、なんて素晴らしいお仕事なんだろうと感じました。


-55kgの3位決定戦の写真、白の柔道衣がミャンマーの選手。左手コーチボックスが平沼さん

覚悟と己への自信

得たいもののためには、その代わりに別の何かを犠牲にしなければならないものです。 能力や欲求、その他様々な事を考慮に入れながら意思決定を下し取り組んでいきます。 人生はそんな選択の連続です。
現役生活は、やはり勝つことに関すること(練習や食事や睡眠等)の優先順位が高くなり 自分が持っている貴重な資源の「時間」「体力」「お金」などをそれらに優先的に費やします。 その反面労働したり何か別のコト、モノに費やす機会を同時に失っていることも起きていて、 多くのモノを犠牲にしていると言っても過言ではありません。 それでも現役を選択するということは、相当な「覚悟」が必要だということは容易に想像できるでしょう。
さらには努力したからといって試合に勝てるという確証はない上に、国際情勢やコロナといった不条理な事象など、様々な要因に左右されることも珍しくありません。
もちろん目の前の楽しいことを我慢したり楽な事を選択しない厳しさも当然のことながら必要なことでそれらを踏まえて「やれるという己への自信」。

選手たちはそういった覚悟や己への自信を持ちながら毎日を過ごします。 それは相手も同じことで双方が覚悟と自信を持って臨むからこそ、そこにはドラマが生まれ 私たちは試合に惹かれるのではないのでしょうか。
今回のSEA GAMEsでは、その一部を垣間見ました。

「やりたいこと」と「やりたいことができる環境」

「やりたいことがないのが普通」、「やりたいことがあっても出来ないことの方が多い」よく父親に教えてもらった言葉の一つでした。 柔道がやりたいと町道場に通い。強くなりたいと高校、大学へと進学し、自分の可能性を最後に信じたいと実業団へと進んで来た現役人生。現役生活に一区切りができ、指導になりたいという思いから出発し、町道場の先生、カナダのアシスタントコーチ、ミャンマーの代表監督として活動が出来ている現在。振り返ると常にやりたいことが見つかって、それらに取り組むことができたのは、たくさんの方々に支えていただき助けていただいたからこそだと強く思います。常々、自分は本当に恵まれているなと感じると同時に、それらを全うする責任と協力していただいた方々への感謝は忘れてはいけないことだと常に考えます。

もちろん、これから先もやりたいことに邁進することは変わりませんが、柔道を指導する立場として、生徒のやりたいことが見つけられたり、やりたいことが出来る環境を作ることも求められていることだと思います。特にミャンマーでは、柔道をやりたくても柔道衣が不足していたり、柔道ができる環境が少ない状況ですのでそういった諸問題を少しでも解決することに今後取り組んでいくつもりです。

おわりに

指導者がいて、選手がいて、協力してくれる方々がいる。
全員で協力し、取り組んできたコトを1日で試し合う場が「試合」。

試合にはその日その結果に限らず、過去から現在までのそれぞれのドラマがあり美しくも残酷なモノです。今までは選手として戦う立場でしたが、これからは選手たちが少しでも良い状態で試合が迎えられるようにサポートしていくことが私の責務であり、それらを全うしながら「自他共栄」自分自身も成長できるように努めていきます。

私たちは今、2025年にタイで開催されるSEAGAMEsに向けて歩き始めています。少しでも私たちの活動に応援していただける方がいらっしゃれば幸いです。

これから待ち受けている試練や幸福に期待をこめて、今回は締めさせていただきます。


閉会式前の選手との記念写真 写真中央が平沼さん

カンボジアSEA GAMEsの閉会式の様子。皆さんとても楽しそうですね!

参考文献 
Website

  1. International Judo Federation Official Website/https://www.ijf.org/2023/07/14
  2. CAMBODIA2023 32th SEA GAMES 12th ASEAN PARA GAMES official Website/https://cambodia2023.com/brand/2023/07/13
  3. 2023 Southeast Asian Games | Phnom Penh/https://olympics.com/en/sport-events/2023-southeast-asian-games-phnom-penh/2023/07/14
  4. Olympics Official Website Southeast Asian Games 2023 final medal table: Complete list/ https://olympics.com/en/news/southeast-asian-games-2023-medal-table-complete-list/2023/07/12
  5. Wikipedia SEA GAMES /https://en.wikipedia.org/wiki/SEA_Games/2023/07/14
  6. Wikipedia Judo at the 2023 SEA Games/ https://en.wikipedia.org/wiki/Judo_at_the_2023_SEA_Games#Mixed_combat/2023/07/14
  7. POSTE 東南アジア競技大会(SEA Games)とは?歴史とともに解説!/https://poste-vn.com/lifetips/sea-games-842/2023/07/12

注釈1 Webio辞書/緬甸/https://www.weblio.jp/content/2023/06/18

SEA GAMEsの柔道競技は以下のURLから鑑賞することが出来ます。
DAY2     https://www.youtube.com/live/0P2o9G_rJoo?feature=share
DAY3     https://www.youtube.com/live/2hl7bZyMzDw?feature=share
DAY4     https://www.youtube.com/live/424IT94epjI?feature=share

平沼大和(ひらぬまやまと)
1997年北海道生まれ、2023年ミャンマー柔道連盟ナショナルチーム代表監督。中央大学商学部会計学科卒業、体育連盟柔道部所属。柔道実業団選手としてスポーツひのまるキッズ協会に所属の後、カナダ柔道連盟ナショナルチームアシスタントコーチを経て現職。