本法人は2021年11月、ブラジルにリサイクル柔道衣16着を寄贈しました。柔道衣を受け取ったのは、同国リオデジャネイロ州で生活支援を受けながら柔道をしている子どもたちです。その子どもたち柔道衣を届け、柔道を指導している藤井裕子さん（前ブラジル男子代表監督）にオンラインでお話をうかがうことができましたので、報告いたします。
（聞き手：事務局 川戸円）
ブラジルに柔道衣を寄贈したのは、2021年東京五輪から約３カ月後の同年11月のことです。新型コロナウイルスなどの影響により国際物流が停滞し、世界に柔道衣が発送できない状況が続いていたことから、グランドスラム・バクー大会（11月５〜７日）に日本選手団スタッフとして参加した本法人の鈴木事務局長が手荷物で柔道衣16着を運搬。同大会に参加していたブラジルチームの選手に託すというかたちで寄贈が実現しました。
その後、柔道衣は当時ブラジル男子代表監督だった藤井裕子さんに届けられ、ブラジル・リオデジャネイロ州にあるヴァーゲン・グランデという町にある「カーサ・アレグリア（喜びの家）」という施設で活用されることとなりました。
この施設では家庭の事情により手助けが必要な子どもたちをサポートしているそうで、藤井さんはここで監督時代から、ボランティアで柔道指導を行っています。
「カーサ・アレグリア」は、ポルトガル語で「喜びの家」という意味。ここに通うことで子どもたちは学校に通う機会を得ることができます
カーサ・アレグリアは、家庭に問題がある子どもたちを受け入れ、食事を提供したり、学校に通えるよう支援を行っている施設です。施設では様々なプロジェクトを実施しているそうですが「スポーツは子どもたちに良い影響を与える」との考えから、柔道だけではなくバレー、サッカーなどのクラブもあり、スポーツ活動は一つの柱となっています。
柔道クラブには、現在約50名の子どもたちが通っていて、週3回の練習を3名の指導者がボランティアで行っています。
子どもたちの平均年齢は10歳。初めて柔道場に来た子どもたちは、些細なことで手足が出てしまったり、受身で少し接触しただけで喧嘩を始めてしまったり。人の話を聞くことができないなどの問題があるそうです。
そんな子どもたちは、身体的にも精神的にも人とのかかわり方を覚え、様々な変化があるそうです。藤井さんは言います。
「先生としか組めなかった子どもが、周りの子どもたちと組んで練習できるようになる、それと同時に周りの子どもたちと良い関係を築けるようになる。柔道にはそんな力があるんです」
家庭環境に問題がある子どもたちは、犯罪に巻き込まれたり、犯罪をする側に回ってしまったり、日常的に「危険な道がたくさんある」と藤井さん。生活が安定していないことから、道場に通うのをやめてしまう子も少なくありません。そうした厳しい環境にいる子どもたちを少なからず見てきた藤井さんはこう話します。
「道場に来てくれる、それだけでいい。柔道場に来ることだけで大きな意味があるんです。だから、子どもたちには『道場に来てくれてありがとう』っていつも声をかけているんですよ」
さて、本法人から寄贈した柔道衣がどのように使われているかお聞きしたところ、皆で共有して使っているそうです。着てから脱ぐまでは、その人が管理するルールなのだとか。ただし今後は、やる気のある子には、柔道衣を渡し、個人のものとして使うという案も出てきているそうです。そうなるとますます稽古に身が入りそうですね！
ちなみに人気の柔道衣はゼッケンなどに漢字が使われているものだそうです。
「ここでは子どもを守る場所として柔道があります。柔道の強化にかかわってきてトップ選手の指導もしましたが、ここでは強化とは違う柔道の可能性と、究極の目的の一つである世を補益する力を感じることができるんです」と最後にお話しくださいました。
ラリッサさん（一番右）、彼女の夢は「日本に行くこと」だそうです
カーサ・アレグリアの子どもたちは日々の稽古でどんどん成長しています。最近では、他の道場の子どもたちと交流したり、試合ができる状況になりつつあるそうです。
ブラジルの貧困街ファベイラの「レアソン」からラファエラ・シルバのようなオリンピックチャンピオン（2016年リオ五輪女子57kg級金メダル）が誕生したように、将来、カーサ・アレグリアから、世界で活躍する選手が表れるかもしれません。
応援しています！
藤井裕子さんありがとうございました。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊
世界には柔道衣を送ることのできない国がまだまだ多くあります。柔道衣を手荷物で運搬いただくスペシャル・プロジェクトは継続中です。これから海外へ渡航予定のある方でご協力いただける方がいらっしゃいましたら、事務局までご連絡ください。
詳しくはこちら