岩本莉樹・海外からの指導便りNo.1【バングラデシュ 🇧🇩】

JUDOsでは、海外で柔道指導者として活躍されている方々の声をお届けする「海外からの柔道指導だより」を掲載しています。

今回は、2025年3月まで東海大学柔道部の国際交流担当としてJUDOsの活動にかかわり、大学卒業後も国際コーチングセミナー2025年度アシスタントコーチを務めてくださった岩本莉樹さんが新しく加わってくださいました。

記念すべき第一弾は、南アジアのバングラデシュです。


海外からの指導便りNo.1
~バングラデシュ🇧🇩~

はじめに

JUDOsホームページをご覧の皆さま、アッサラーム・アライクム(こんにちは)!

東海大学柔道部の学生時代より国際交流係としてJUDOsの活動に携わらせていただいております、岩本莉樹です。

私はJICA海外協力隊2025年3次隊として、バヌアツ共和国への派遣を予定しています。語学訓練所入所までの期間、NPO法人JUDOsの指導者派遣として、2024年7月10日から9月3日までの約2か月間、バングラデシュ共和国柔道ナショナルチームの短期コーチとして活動させていただきました。

遅ればせながら今回は、その活動を通して感じたことを「バングラデシュ柔道記」としてお伝えします。


空港到着・歓迎の様子

バングラデシュ到着は深夜でしたが、空港では柔道連盟関係者の方々が温かく迎えてくださいました。

初日から盛大に歓迎され、こんなにも喜んでもらえるのかと嬉しい気持ちと、これから始まる活動への責任と期待、不安を強く感じました。


道場(体育館)の様子

私たちが使用した道場は、軍隊が管理する施設内にある体育館です。

柔道だけでなく、レスリングやバスケットボール、武術(ウシュ)、フェンシングなど、複数競技が共同で利用していました。

日によっては、朝体育館へ行くと他競技のマットが畳を押しのけて侵食してきたりすることもしばしばありました。

また、他競技の大会が理由で体育館が使用できない日も多く、しかもその連絡は前日に来ることがほとんどでした😅

事前に予定が分かれば、更に選手の練習計画も立てやすかっただけに、環境面でのやりにくさ、難しさを強く感じました。

練習前後の様子

バングラデシュでは、日本の道場のように、毎日掃除をする習慣はありません。

軍関係者や他競技の選手が土足のまま畳の上を横切ることも多く、畳は常に土やホコリで汚れていました。

当然、柔道衣も稽古のたびに黒くなってしまいました。

街全体の環境や文化背景として、「掃除は仕事として誰かが行うもの」という考え方もあります。街中にも大量のゴミが散乱していたり、街中を歩いていると民家の二階の窓からゴミがポツンと落ちてくるなんてこともありました。それが現地の人たちの当たり前なんだなと全く違う文化に驚きました。

柔道本来の目的である「自他共栄」「精力善用」を伝えることも指導の一部だと考え、選手たちに毎日できる限り練習の前後で拭き掃除、掃き掃除をさせました。

また、稽古場は屋根のある体育館といえど、蚊の多さには特に悩まされました。練習前後や練習中に関係なく、体育館所有主の軍隊関係者が蚊除け用の燻煙剤を散布することがあり、視界が悪くなりすぎて練習を中断することもしばしばありました。(健康上にもあまり良くないようにも感じました😅


履き物の様子

バングラデシュの選手たち(バングラデシュ人)は、先のことを考えて行動する習慣があまりありませんでした。

それは能力の問題ではなく、これまでそうした文化や経験がなかったからだと思います。

そこで、

・練習開始ギリギリではなく、少し早く来る
・掃除をしてから練習に入る
・靴を脱いだら、次に履くことを考えて向きを揃える

こうした日本では当たり前の行動を、柔道指導の一環として習慣化させていきました。

これまでの習慣は、選手らの試合に影響することがよくあり、ゴールデンスコア(延長戦)になる前に力尽きてしまったり、試合の組み立てや展開が上手くない選手が多いような印象でした。

先々のことを日常から想定して正しく準備をすることはとても大事なことです。

形の大会の様子(入賞ペアの演武)

靴を揃える習慣はありませんでしたが、柔道の武道的側面が全く伝わっていなかったわけではありません。

畳に上がる際の一礼、乱取りの前後の礼、投げ技の形など、基本的な礼儀作法は正しく受け継がれていました。

また、私が派遣されていた期間にはバングラデシュ史上初、投の形の大会も開催されていました。

柔道が競技だけではなく、武道としての側面も持って現地に根付いていることが少し感じられました。


日常・食事の様子

ある日、日々のスパイス料理に胃が疲れていたのを見かねて、コーチらが合宿所近くの「日本食レストラン」に連れて行ってくれました。

「味噌ラーメン」を注文すると、出てきたのは真っ赤な麻辣風の麺。

もちろん味噌は入っていませんでしたが😅

バングラデシュにはこういった中国人が経営している日本風のレストランが多く存在します。それでも現地の人たちは、これを本物の日本食だと思い、「I LOVE ラーメン!」と言っていました。

日本食ですら正しく伝わっていないこの地で、なぜ柔道はこれほど正確に伝わっているのか。

それは、これまでJICA派遣をはじめ、多くの日本人指導者が長年にわたり真摯に柔道普及に取り組んできた結果なのだと強く感じました。

 

今回の2か月間の指導では、当初男女合わせて約60名いた選手を、2度のセレクションマッチを経て、最終的に27名まで選考しました。

初期段階ではレベル差が大きかったため、初めの2,3週間は身体の動かし方や使い方を楽しく学べるメニューを中心に行いました。徐々に、南アジア大会を見据えたような実戦的な練習メニューへと変化させていきました。

 

バングラデシュの選手たちは、身体の力は非常に強いものの、それを効率よく使えていませんでした。常に全身に力が入り、無駄な力で投げを仕掛ける場面が多く見られました。試合でもすぐにスタミナが切れてしまう選手が多く、ゴールデンスコアでは諦めてしまうような選手も多く見受けられました。

正しい方向、正しいタイミングで技を仕掛けることで最小限の力で最大の効果を発揮できる柔道が可能になります。また、受けの場面では腕力や、身を捨ててぶら下がって攻撃を防ごうとする選手が多かったため、正しい自護体姿勢と重心移動ができるよう意識した指導を行いました。

トレーニングの様子

セレクションを経て残ったナショナルチームとしての自覚が芽生えると、選手らの雰囲気は少しずつ変わりました。厳しい稽古やトレーニングをこなしてきた自信もついたのではないでしょうか。

コーチらも選手に厳しくし慣れていない様子でしたが、なんとしても南アジア大会での金メダルを取らせたいなら、選手を甘やかすする必要はないと伝えました。

選手らはキツイ練習やトレーニングをせずにチャンピオンになれないと当然理解していましたし、必死に喰らい付いてきてくれました。

23歳の私が、10代の若手から30代のベテラン選手らに厳しく指導するなかで、異なる練習スタイルや、異文化に戸惑った選手も多くいたと思います。ベンガルも、英語すらも上手く伝えられない私に、それでも信頼関係を築いてくれた選手・コーチらにはとても感謝しています。

日々の行動が意識を変え、意識がチームをつくる。

その過程を間近で見られたことは、私にとっても大きな学びでした。

 
オフショット

おわりに

今回、このような貴重な機会を与えてくださったNPO法人JUDOsの皆様、バングラデシュJICAの池田様には心より感謝申し上げます。

これから私はJICA海外協力隊としてバヌアツ共和国へ派遣されますが、柔道を通して人と社会に貢献するという軸は変わりません。

バングラデシュでの経験を糧に、これからも柔道とともに歩み続けていきたいと思います。

Donnobad Bangradesh🇧🇩👋