ミャンマー🇲🇲より【めんでん 柔道記 No.15】

JUDOsでは、海外で柔道指導者として活躍されている方々の声をお届けする「海外からの柔道指導だより」を掲載しています。

ミャンマー🇲🇲・ネピドーで柔道指導を行っている平沼大和さんからの活動報告です!

English version Menden15


めんでん 柔道記
〜4,364km離れたミャンマーの地で🇲🇲vol.14〜

※めんでん:漢字表記でミャンマーのことを指す。旧ビルマ

※写真は、ミャウミャにて設立した平沼道場の練習風景

皆様、ご無沙汰しております。

ミャンマーにて柔道の普及と発展に取り組んでいる平沼です。2025年も早くも数ヶ月が過ぎましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか? 新たな挑戦に向けて忙しくされている方も多いかと思います。

 私自身、年明けから慌ただしい日々を過ごしておりました。1月には、2025年12月に開催されるSEAゲームズに向けた本格的な準備が始まり、ナショナルチームの強化にも一層力を入れることとなりました。また、次回改めてご報告させていただきますが、私の大学の後輩が1ヶ月間トレーニングパートナーとしてミャンマーに滞在し、選手たちと共に汗を流してくれました。そして2月には、私自身が選手として国際大会に初めて出場し、入賞を果たすことができました。

こうした出来事が重なり、なかなか活動報告ができずにいましたが、今回は新たに設立した平沼道場の活動開始について、そして私自身の試合についてご報告させていただきます。この記事を通じて、ミャンマーでの柔道の現状や今後の展望について少しでも伝われば幸いです。ぜひ最後までお付き合いください。

設立の背景と目的

私がミャンマーに来た主な目的は、2年に1度開催されるSEAゲームズにおいて良い成績を残すために、ナショナルチームの指導を行うことでした。しかし、短期的な成果だけを追求するのではなく、長期的な視点でミャンマー柔道の発展を考えたとき、基盤となる柔道の普及が不可欠であると痛感しています。

具体的に言えば、ナショナルチームに昇格してから基礎や基本の技術・動作を学ぶのでは遅く、できる限り幼少期から柔道の稽古を積む環境が必要だと感じています。私が初めてミャンマーに来たとき、こうした課題を強く実感しました。また、他国の柔道指導者の話や記事を読んでも、基礎や基本の動作が十分に身についていないケースは珍しくなく、これはミャンマーに限らず多くの国が抱えている共通の課題であることが分かりました。

この点で、日本の柔道システムや指導環境は、他国が課題としている部分を強みとして持っていると感じています。日本では幼少期から体系的に柔道を学べる環境が整っており、その経験が長期的に選手の育成に大きな影響を与えています。こうした背景を踏まえ、ミャンマーでも早い段階から柔道に触れられる場を作ることが必要だと考え、道場の設立に踏み切りました。

この取り組みについては、以前 「第4回めんでん柔道記」 にも詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。(ミャンマーより【めんでん 柔道記 No.4】/認定特定非営利活動法人JUDOs / https://judos.jp/myanmer4/2023年9月13日 )

道場設立の構想を持ち始めてから時間が経ちましたが、その分、確実に積み重ねができていると実感しています。しかし、柔道を広く普及するためには1つの道場だけでは不十分です。そこで、以前指導していた選手たち(すでに引退し、コーチの道を歩み始めた者もいる)や、少年柔道の普及に関心のある先生方とコミュニケーションを重ねながら、新たな道場を設立しました。


ヤンゴンに設立した平沼道場の生徒たち

道場の運営状況

2025年1月1日より、ミャウミャとヤンゴンの2拠点で道場の活動を開始しました。 どちらの道場にも約30〜40名の子どもたちが集まり、日々柔道の稽古に励んでいます。

指導では、まず身体を動かし、柔道の基礎を身につけることを重視しており、基本運動や柔道の基礎動作、技術練習などを中心に、子どもたちが楽しみながら柔道に親しめる環境を作っています。ただし、指導者1人では大人数を教えるのが難しいため、体育学校の生徒たちや他の先生方にも協力を仰ぎながら運営しています。そのおかげで、現在のところ順調に道場活動が進んでいます。

また、使用している柔道着は、以前、日本の企業の方々がミャンマーへ渡航する際に持参してくださったものを活用しています。これらは JUDOs様のプロジェクト によるもので、中古の柔道着や畳を海外へ送る支援の一環として実現しました。このような支援のおかげで、柔道を始めるハードルが下がり、より多くの子どもたちが柔道に挑戦できる環境が整っています。

今後の展望

これまでミャンマーでは少年柔道の場がほとんど存在しなかったため、今回の道場設立は大きなインパクトを与えていると感じています。そして、この取り組みをさらに発展させるために、今後も継続的に活動を広げていきたいと考えています。

5月と7月には、ミャンマー国内で試合が開催される予定です。そこでは、ネピドー・ヤンゴン・ミャウミャの柔道クラブの生徒たちが試合をする機会があると予想されており、道場を超えた交流の場が生まれることを今から楽しみにしています。 柔道を通して、道場の枠を超えたつながりが生まれ、新しい関係が築かれることはとても素晴らしいことです。


ネピドーに設立した平沼道場の生徒たち

選手として出場した大会の概要

今回出場した大会は、オリンピック出場に必要なポイントが関係する国際大会であり、ポーランド・ワルシャワにて開催されたヨーロピアンオープンという大会でした。大会のレベルは非常に高く、私が出場した66kg級には約60名の選手が世界各国から参戦していました。

例えば、−66kg級世界ランキング28位のイタリア代表選手(阿部一二三選手とも対戦経験あり)や、−60kg級の世界ランキング1位のジョージアの選手など、トップクラスの選手たちが集結しており、まさにハイレベルな戦いが繰り広げられました。他の階級においても、世界的に名の知れた選手が至るところにおり、試合会場の雰囲気そのものがエキサイティングで、非常に刺激的な経験となりました。

そのような国際舞台で、日本の国旗とゼッケンを背負って戦えたことは、私の柔道人生における1つの夢が叶った瞬間でもあり、指導者としての道を進んでいる中で、選手として再び大会に出場し、世界の強豪たちと対戦できたことは自分自身にとっても貴重な経験になりました。


ウクライナの選手に大内刈りを仕掛けているシーン

試合の振り返りと結果

私はここ数年、指導者としての活動に軸足を置いており、選手としての大会出場は約3年ぶりでした。しかし、年に1〜2回は試合に出場したいという気持ちがあり、また、指導者としての経験を深めるためにも、選手としてのリアルな体験を指導現場に還元することは大きな価値があると考えています。

とはいえ、十分な準備ができていなかったのも事実であり、試合後には「今ある環境をもっと有効に活用し、より良い準備ができたのではないか」と感じました。それでも、初の国際大会で7位入賞という結果を残すことができたことは、自分にとって大きな収穫でした。

試合の詳細は以下の通りです。

1回戦:ウクライナの選手に対し、ゴールデンスコアの末、

背負い投げで「有効」を奪い、優勢勝ち。

2回戦:ドイツの選手との試合中、相手が脇固めの反則技を使用したため、反則勝ち。

3回戦:ポルトガルの選手に対し、背負い投げで2回の「技あり」を奪い、合わせ技一本勝ち。

準々決勝:カザフスタンの選手と対戦。一本背負いで「技あり」を奪われるも、その後、抱き分けで「技あり」を取り返す。しかし、ビデオ判定により取り消しとなり、惜しくも敗戦。

敗者復活戦:再びウクライナの選手と対戦。しかし、心身ともに疲労が蓄積しており、小外掛けで一本負け。

試合を振り返ると、ヨーロッパの選手たちの柔道は比較的予測しやすく、対策を立てやすい印象を受けました。しかし、カザフスタンやウクライナの選手の柔道スタイルは初めて経験するものであり、試合中にどのように攻め、どのように対応すべきか戸惑う場面も多かったです。

具体的には、立ち方や組み手が逆だったり、技のかけ方が独特だったりと、日本の柔道とは異なる要素が多く、言葉で説明するのが難しい部分もありました。 まだ理解しきれていない部分も多いですが、今後の課題として向き合っていく必要があると感じました。

 

また、試合を通じて改めて「その日その時のコンディションや流れが、勝敗を大きく左右する」ということを痛感しました。柔道は、実力だけでなく、試合当日の調子や戦略、心理状態などが勝敗に直結するスポーツであり、メンタル面も含めた準備がより重要であると再認識しました。


今大会の組み合わせ(ヨーロッパ柔道連盟より引用)

今後の挑戦に向けた意気込み

次戦については、国際大会に再び挑戦するのか、国内大会に出場するのかはまだ未定ですが、今回の経験を踏まえ自分の柔道スタイルをさらに理解し、新たな技や戦術を準備して臨みたいと考えています。

また、2025年12月に開催されるSEAゲームズに向けた本格的な準備がすでに始まっており、今後は指導者としての役割がより重要になると感じています。そのため、優先順位としてはナショナルチームの強化や指導の仕事を第一に考えながらも、選手としてできる範囲で挑戦を続けていきたいと思います。

指導者としての活動が増える中で、自分自身が試合に出ることの意味や価値を再確認できたことも、今回の大会の大きな収穫でした。選手としてのリアルな経験を指導に活かしながら、柔道家としてさらなる成長を目指し、次のステージへ向けて精進していきます。


今大会の最終結果(国際柔道連盟より引用)

おわりに

今回は、ミャンマーに新しく設立した平沼道場の活動報告と、私自身が選手として出場した国際大会の結果についてご報告させていただきました。

2025年もすでに2ヶ月が経過し、SEAゲームズ(2025年12月開催)に向けた本格的な準備が進んでいます。 現時点での予定としては、4月にマレーシアとタイでの国際大会にナショナルチームが出場予定であり、さらに5月・7月には国内大会、8月には再びタイで国際大会が予定されています。これに伴い、合宿や強化練習が増え、非常に忙しい一年となることが予測されます。一方で、ナショナルチームの活動だけでなく、少年柔道の普及も本格的に広がっていく見込みです。

ミャンマーでは、軍事クーデターから5年目を迎え、情勢の悪化が続いています。 特に若い人材の海外流出が進み、社会全体に閉塞感が漂っているのが現状です。しかし、そんな中でも柔道を通じて努力を続ける選手や指導者が確かに存在し、未来への希望を持ち続けていることを、この記事を通して知っていただければ幸いです。柔道は単なる競技ではなく、自己成長の場であり、人と人をつなぐ大切な場でもあります。 私たちは、この柔道を通じて少しでもミャンマーの若者たちに新たな可能性を示せるよう、引き続き活動を続けていきます。

現在、私たちの活動を応援していただける方や、ご支援を検討してくださる方がいれば、大変ありがたく思います。 柔道着や畳、指導環境の整備、国際大会の遠征費など、継続的な活動には多くのサポートが必要です。また、ミャンマー柔道ナショナルチームのトレーニングパートナーやインターンとして、現地での指導や練習に協力していただける方も大歓迎です。興味のある方がいれば、ぜひご連絡ください。柔道を通じた国際交流の場として、一緒にミャンマー柔道の発展に貢献していただければ嬉しく思います。

次回の記事では、1月に1ヶ月間トレーニングパートナーとして来てくれた大学の後輩の活動についてご報告します。彼がミャンマーの柔道にどのように関わり、選手たちにどのような影響を与えたのか、詳しくお伝えしたいと思います。

これからも、柔道を通じた挑戦と成長を続けていきますので、引き続き見守っていただければ幸いです。 それではまた次回、お会いしましょう!

参考文献

1.European Judo Union/ https://www.eju.net/ 2025/03/03閲覧
2.International Judo Federation / https://www.ijf.org / 2025/03/03閲覧
3.認定特定非営利活動法人JUDOs ミャンマーよりめんでん柔道記No.4 /  https://judos.jp/myanmer4/2023年9月13日 /2025/03/03閲覧


平沼大和(ひらぬまやまと)

1997年北海道生まれ、2023年ミャンマー柔道連盟ナショナルチーム代表監督。中央大学商学部会計学科卒業、体育連盟柔道部所属。柔道実業団選手としてスポーツひのまるキッズ協会に所属の後、カナダ柔道連盟ナショナルチームアシスタントコーチを経て現職。


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