ブータン🇧🇹より【カディンチェ柔道日記!No.19】

JUDOsでは、海外で柔道指導者として活躍されている方々の声をお届けする「海外からの柔道指導だより」を掲載しています。

南アジアのブータン王国🇧🇹でJICA青年海外協力隊として活動をしている福井勇貴さんからの活動報告です!


カディンチェ柔道日記🇧🇹🥋

※Kadrin Chhe la(現地語 ゾンカ)ありがとう
ブータン柔道はこれまで多くの方々のご協力、支援があってここまで来ました。
そんな感謝の気持ちからタイトルコールはカディンチェとさせていただきました。

皆様、お世話になっております。

JICA海外協力隊としてブータンナショナルコーチをしています。福井 勇貴(ふくい ゆうき)です。

先日日本では、グランドスラム東京が開催されましたね。

今年は、オリンピックが開催されたということもあり、例年と比べて参加者は少し少なかったように見えましたが、日本代表選手の激闘には、私もとても感動しました。今回のグランドスラム東京では、多くの若手選手たちが活躍していたように見えました。

早くも4年後のロス五輪が楽しみになりました。そして、このグランドスラム東京を観戦した中で、私が一番感動したのは、90kg級の村尾選手です。

8月にパリオリンピックに出場した後、約4ヶ月の間で東京のグランドスラムにも参加し、多くの厳しい試合を戦ったと思いますが圧巻の優勝を飾った試合の様子にはとても感動しました。

さて今回のテーマは前回の最後にお伝えしたように、BJA(Bhutan Judo Association)の近況ということで、今年一の大きなプロジェクトでした「ブータン柔道コーチライセンス制度」についてお話しさせていただきたいと思います。

ブータン柔道でコーチライセンス制度スタート

この章では、どんな背景でこのライセンス制度が始まったのか?などについてお話しさせていただきます。

遡ること約3ヶ月、年内に予定していたすべての国際大会への出場を終え、協会の運営メンバーで今後についてのミーティングが行われました。

そのミーティングでは、これまでの話し合いでも議題として取り上げられてきたように「約10年前にブータンで開始した柔道。今後初心に戻り柔道普及活動に注力していくという方針」がこのミーティングで決定しました。この決定の背景にはいくつかの大きな理由があります。

その1つが、ここ数年ブータン柔道協会の代表選手やシニア選手たちの国際大会での活躍もあり、協会自体がエリートプログラムに全勢力をつぎ込んできました。初心者クラス以外に普及活動を行う時間は年に数回程度しかありませんでした。

そんな状況もあり、ブータンで柔道を始めて普及していた約10年前に戻って草の根レベルに力を入れていこうという今後の協会の方針になりました。

また、ブータン柔道では、これまで柔道のコーチになるのにライセンスの制度がありませんでした。そのため、長年柔道をしていた人は自然とコーチとしていくらでもなれる状況でした。

今後この草の根レベルの普及活動を進める際、各地で柔道指導が可能となります。その際に、ライセンスを持った柔道コーチが必要不可欠であるため、ブータンで初となる「ブータン柔道コーチライセンス制度」の策定・実施が決定しました。そして、コーチ陣の幾度となるミーティングによってこのライセンス制度にかかるプロジェクトが始まりました。

このような感じで決まったので、すでにある程度の案などが決まってかのように見えますが実はそんなことはなく、本当に0からのスタートとなりました。「ライセンスの種類はどのくらいの種類が必要か?」「各ライセンスを取得するのに、どんなセミナー、実技、試験内容が適切か」などと現地のコーチ陣と連日ミーティングの日々でした。

まさに、0から1、新たに作る大変さというものを感じました。

約2ヶ月という期間がありましたが、正直とても時間が過ぎるのが早く、大変な時間だったなと思います。IJF(国際柔道連盟)や全日本柔道連盟の指導者ライセンスの取得方法や試験内容などを参考にさせてもらいつつブータンで行うということを考えて策定にあたりました。

コーチ陣の奮闘により10月から始めた作業も、12月の初旬に終えることができました。

次の章では、実際に策定したコーチライセンスの内容についてお話しさせていただきたいと思います。

コーチライセンス制度について

上記では、なぜこのプロジェクトが始まったのか?等について話させていただきました。

この章では、実際に私たちが策定したコーチライセンスについて簡単にお話しさせていただきたいと思います。このライセンス自体は、ブータン国独自のライセンス制度で、ブータン国のみで使うことができるライセンスになります。ライセンスは4つに分類されています。ライセンスレベルの分類については以下にて説明させていただきます。

LEVEL1 Assistant Teaching License
LEVEL2 Instructor License
LEVEL3 Coach License
LEVEL4 Pro License

まず初めに、Level1のAssistant Teaching Licenseですが、18歳以上の1年以上の柔道経験がある者が受けられるライセンスになります。

このライセンスを取得する上で必要な講習は、柔道の歴史、柔道の精神、安全指導法、応急処置法、投の形(足技までの9個)、基本的な立技の投技、基本的な押さえ込み技と寝技の講習内容になっています。また、座学の講習(柔道の歴史、柔道の精神、安全指導法)の中から各5-7問を抜粋した問題と柔道で使われている日本語の語彙の問題が筆記試験となります。

技術試験では、礼法、投の形(足技までの9個)、基本的な投げ技3つ、基本的な寝技3つが技術試験内容となっています。

ここで少し余談にはなりますが、ブータンでは王様が作った国家プロジェットの1つにGyalsung Programというのがあります。


Gyalsung programの実際の様子 (Gyalsung official Facebookから引用)

こちらを簡単に説明しますと、義務教育の一環として高校三年生を卒業した人が義務として参加するプログラムになります。

このプログラムでは、軍事訓練(基礎的な軍事技能(身体訓練、戦術訓練など)、市民教育(国家のアイデンティティや倫理観の形成を目的としたカリキュラム)、技術教育(農業、IT、エンジニアリングなどのスキル訓練)などが4-6ヶ月住み込みで行われるプログラムになります。

Gyalsung programの実際の様子 (Gyalsung official Facebookから引用)

実は、このGyalsung programに柔道がカリキュラムとして選ばれました。

正直このことは、ブータンでは、とても大きいことです。

以前からこの私の活動報告にて書かせていただいていますが、ブータンで柔道というのは極めてマイナーな競技です。もちろん国営放送や新聞等で柔道について多く取り上げていただいているので全く国民に知られてはいないということではないですが、ブータン人からしたら「武道」は空手やテコンドーになります。

そんな柔道ですが、今回Gyalsung Programに選んでいただけました

そして、実はブータンの王様His Majesty Jigme Khesar Namgyel Wangchuckは柔道の有段者なのです。

少し余談が入ってしまいましたが、この国家プログラムに柔道が今後カリキュラムの1つとして導入されることになりました。

しかし、このプロジェクトでは外国は介入することができません。またこのプログラムのインストラクターは警察や軍隊の人のみになります。そのため、私たち柔道協会のコーチ陣は指導に行くことができません。

そのため、軍隊、警察には元々少しでも柔道を経験したことのある人に向けてこのLevel1のライセンスを設定しています。そのような人たちがこのセミナー、技術指導、試験を協会の正式なコーチに指導を受けて試験で合格した者がこのGyalsung Programで指導者として指導をすることができるようになっています。

しかし、正直日本人には少し理解し難いと思います。

このライセンスを取得するには、最低1年の柔道の経験と10日間のライセンスセミナー、筆記試験、技術試験、7日の指導補佐をというカリキュラムを受けてライセンスが発行されます。

Gyalsung Program で指導するのは1週間に1回50分のカリキュラムになります。ですから、乱取りなどの技術的な練習の指導というより受け身や体作り運動、基本的な技の指導のみとなります。

すでにこれまで何年も柔道をしてきて、初段やそれ以上の有段者はこのLevel1をスキップしてLevel2のInstructor Licenseを受験することができます。

では、このLevel2のInstructor Licenseについて説明していきます。

Level2 Instructor Licenseは18歳以上の柔道初段の者かそれ以上の有段者がこのライセンスを取得することができます。このライセンスを取得する上で受講の必要な講習は、柔道の歴史、柔道の精神、安全指導法、基本の栄養学、応急処置法、投の形、100の柔道技、フィジカルチェック(YoYo Run)が講習内容になっています。また、座学の講習(柔道の歴史、柔道の精神、安全指導法、基本の栄養学、応急処置法)の中から各5-7問を抜粋した問題と柔道で使われている日本語の語彙の問題が筆記試験の内容となります。

技術試験では、礼法、投の形、100の柔道技(この中から7-10程度抜粋)が技術試験内容となっています。

また、Level2のライセンスを取得した人は、Level3以上のライセンスを持つ人と共同で柔道クラブを運営することが可能となり、月謝を集めてブータン国内で柔道の指導を行うことが可能となります。

次にLevel3について簡単に説明したいと思います。

Level3,Coach Licenseは20歳以上の柔道弍段もしくは、弍段以上の有段者がこのライセンスを取得することができます。

このライセンスを取得する上で受講の必要な講習は、安全指導法、基本の栄養学、応急処置法、アスリート栄養、応急処置法、国際柔道連盟試合審判規定、アスリート心理学、投の形、100の柔道技、フィジカルチェック(YoYo Run)が講習内容になっています。また、座学の講習(安全指導法、基本の栄養学、アスリート栄養、応急処置法、国際柔道連盟試合審判規定、アスリート心理学)の中から各5-7問を抜粋した問題と柔道で使われている日本語の語彙の問題が筆記試験の内容となります。

技術試験では、礼法、投の形、100の柔道技(この中から7-10程度抜粋)が技術試験内容となっています。

また、このLevel3を取得すると、1人で柔道クラブを開くことができます。

また、このライセンスを持つ人は、国際柔道連盟の主催するIJF Academyにブータン柔道から参加することが出来、国際柔道連盟の公認指導者ライセンスを取得することができます。

次にLevel4について簡単に説明したいと思います。

Level3,Coach Licenseは23歳以上の柔道参段もしくは、参段以上の者がこのライセンスを取得することができます。

このライセンスを取得する上で受講の必要な講習は、安全指導法、基本の栄養学、応急処置法、アスリート栄養、応急処置法、国際柔道連盟試合審判規定、アスリート心理学、トレーニングメニュー作成法、マネジメント学、投の形、100の柔道技、フィジカルチェック(YoYo Run)が講習内容になっています。また、座学の講習(安全指導法、基本の栄養学、アスリート栄養、応急処置法、国際柔道連盟試合審判規定、アスリート心理学、トレーニングメニュー作成法、マネジメント学)の中から各5-7問を抜粋した問題と柔道で使われている日本語の語彙の問題が筆記試験の内容となります。

技術試験では、礼法、投の形、100の柔道技(この中から7-10程度抜粋)が技術試験内容となっています。

このLevel4を取得すると、Levele3同様自身で柔道クラブを開くことができます。

また、自身の柔道クラブから国際大会やトレーニングに参加することも可能になります。

さらに、ブータン柔道代表チームの監督やコーチに選出される可能性もあります。

その際に、World Judo tour やGrand slamやアジア大会、オリンピックに代表チームとして参加することができます。

以上の内容がブータン柔道で新たに策定したコーチライセンス制度のカテゴリー別の講習内容と試験内容になります。

また、すでに上記の写真などからお気付きの方もいらっしゃると思いますが、このライセンス制度が始まるにあたってライセンス制度に関して詳細を載せているハンドブックを作成しました。

それについては、次の章にてお話しさせていただきたいと思います。

 

Handbook作成

上記に記載させていただいたように、このライセンス制度の策定、開始を受けて今回私は、このライセンスに関わる詳細を記載したハンドブックの作成をいたしました。せっかく作成するのでただのハンドブックではなく、今後ブータンの人々が、使う中でわかりやすく、そして使いやすいものにしたいと思いました。

また、ライセンスのことだけを記載するのではなく「なぜこのライセンス制度が始まったのか」、「このライセンスにはどんな意味があるのか」、「柔道における教育の場面」「柔道で使われている日本語語彙集」なども同時にまとめました。

正直、このハンドブックを作成するのは、とても大変でした。

最初の章でも話をさせていただきましたが、0から1を作成して、それを実際に実働させることにはものすごく時間を有しました。しかし、私はこのライセンス制度ができたこと、ハンドブックの作成することができたことに、とてもワクワクしています。もちろん今後実働をしていき、さらに改良が必要になったりとするかと思います。

しかし、今後ブータン柔道が存在し続ける限りこのライセンス制度は続いていきます。

そして、そのライセンス制度によってこれまでコーチとして柔道に携わりたかったけど、生計が立てられないなどといった理由によって諦めてしまった人も、今後このライセンス制度によってきちんと生計を立てて好きな柔道をブータンで仕事にすることができます。さらに、このライセンス制度で今後柔道をブータンに普及してブータンで柔道がより大きくなり、国際大会やさまざまな場面でブータンの選手を見かける機会が増えるかもしれません。

とてもワクワクしますよね。

そんなとても大事なプロジェクトに携わることができたこと、ハンドブックを作成することができたことには、私自身もとても嬉しく思います。今後このライセンス制度によってブータン柔道がさらに進化していく様子をみなさんも一緒に見守っていただけたら嬉しいです。

少しばかりですが、どんなハンドブックなのか写真を載せさせていただきます。

Other Shot of BJA

今回も最近のブータン柔道協会のオフショットを少しばかりですが、ご紹介したいと思います。


初心者クラスの様子
ジュニアクラスのトレーニングの様子

〜さいごに〜

上記に記載したように、今回は私たちが新たに始めましたプロジェクト、コーチライセンス制度についてお話しさせていただきました。

今回のこのライセンスの策定にあたって、限られた時間の中で多くのミーティングを実施し、制度設計をしました。そんな限られた時間の中でも期限内にどうにか完成することができたこと、このプロジェクトの策定メンバーなれたこと、ハンドブックを作成することができたこととても嬉しく思います。

また、この制度の策定の過程には私1人だけでは絶対に完成することができませんでした。コーチ陣の熱心な働きによってこのライセンス制度の策定を終えることができました。

今後5年、10年、15年後などに状況によってライセンスの取得方法や試験内容について変更が予想されますが、このライセンス制度というのは、ブータン柔道において非常に需要な1歩を踏み出したと思います。

この先このライセンス制度によって草の根レベルの多くの柔道家、コーチたちが育っていくと思います。

そんなブータン柔道の将来が楽しみです。

このことは直接ライセンスのことには関係しませんが、私は3月20日にJICA海外協力隊柔道隊員としての契約が終わります。ということは、3月19日にはブータンを離れるということになります。残り3ヶ月を切った期間の中で自分の集大成としてこのことに取り組むことができて嬉しく思います。

また、12月9日から冬季柔道キャンプがブータン柔道では行われています。この冬季柔道キャンプは来年の2月中旬までの約3ヶ月間によるプログラムになります。このプログラムが終われば、私はおおよそブータンでの活動が終了になります。

この2ヶ月の私の活動が本当の集大成になると思います。

残りの期間「私が彼らにできることは何か」、「ブータン柔道に最後に伝えていきたいこと」を考えて有意義な時間にしていきたいと思います。

また、同様に私がブータンで生活できる時間も残り僅かとなりました。ブータンでできた友人たちと過ごす時間も限られているので、はしゃぎすぎないように思いっきり楽しんでいきたいと思います。

今後も暖かい目で皆様に見守っていただけると嬉しいです。

〜次回について〜
次回は、前回のコーチライセンス制度に続きますが、第1回Level1コーチライセンスセミナーを実施しました。そちらの様子と最近のブータン柔道についてお話しさせていただきたいと思います。

少しでもこの記事を見てブータン柔道について興味を持っていただいたり、応援してくださったりすると嬉しいです。

さいごまでご覧いただきいただきありがとうございます。

Kadrin Chhe la(現地語ゾンカ)ありがとうございました。

Lok jae ge la(現地語ゾンカ)また会いましょう☺️

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