JUDOsでは、海外で柔道指導者として活躍されている方々の声をお届けする「海外からの柔道指導だより」を掲載しています。
今回は、インド南部のインド洋に浮かぶ島国 スリランカ 🇱🇰 からの便りです。スリランカ中部の街・ガンポラを訪れ、学校の道場で柔道の指導を行った堀内芳洋さんより、現地での活動報告が届きました。
スリランカから現地レポート
自己紹介
皆さま、はじめまして。堀内芳洋と申します。普段は大学の職員として勤務しながら、土曜日は藤沢の湘南共栄道場でコーチも務めています。15年ほど前に海外の、特に途上国で行われている柔道に関心をもち、これまでにアジア10ヵ国の柔道場を訪ねてきました。そこで見たものは、日本から遠く離れた場所で道衣や畳が十分でなくても、ひたむきに柔道に取り組む人たちの姿です。その姿に感銘を受けて、自分も柔道の自他共栄の精神を体現したいと思い、2014年から2016年まではヒマラヤ山脈の東端に位置するブータン王国で柔道コーチ(JICA海外協力隊)として活動しました。
当時の記録はこちら JICA海外協力隊の世界日記
私がコーチとして赴任した当時、始まったばかりだったブータンの柔道はその後軌道に乗り、2016年に念願であった国際柔道連盟への加盟を果たした後、そのバトンは内田美優さん(現 チェコ共和国柔道コーチ)、歌代勇佑さん(現 ケニア共和国柔道コーチ ハクナ・マタタ・ウタタン日記)、福井勇貴さん(今年3月に帰国 カディンチェ柔道日記)といった方々に受け継がれて、世界柔道選手権大会出場(2019)や東京オリンピック出場(2021)といった大きな目標を成し遂げることができました。たくさんの方々のサポートを受けて、ブータンでは現在も柔道の普及が進んでいます。
ブータンの教え子たち
2019年世界柔道選手権東京大会
スリランカの柔道との出会い
スリランカの柔道との出会いは、私がJICA海外協力隊としてブータンに派遣される前、2013年の夏にまで遡ります。当時、仕事の夏休みを利用してスリランカを訪れた私は「中部にあるガンポラという町で柔道が盛んに行われているらしい」という情報をもとに、現地を訪ねることにしました。道場の場所など事前に詳しい情報を得ることはできませんでしたが、世界遺産に登録されているキャンディという都市からバスで向かいます。
スリランカの国営バス
バスを降りて目の前にあった商店で、柔道をやっている場所を知らないかと聞いてみたところ、偶然にも店主が現地の柔道コーチDissanayake氏(以下、Dissa先生)と知り合いだったことから、電話を繋いでくれました。Dissa先生が手配してくれたスリーウィラー(三輪のタクシー、他国ではオートリキシャやトゥクトゥクとも呼ばれる)に乗って街を抜けて山に入り、本当にこの先に柔道場があるのかと不安になってきたころ、自然に囲まれた小さな学校の建物が見えてきました。
ガンポラの学校、教室
スリランカの道場の様子
Wewathenna Schoolという学校の前で、柔道衣を着たDissa先生が突然の訪問客を迎えてくれました。スリランカの学校では午前の授業が終わると子どもたちはお昼ごはんを食べて帰宅するそうで、この学校の柔道場には複数の学校から集まってきます。道場にやってくる子どもたちの数が多いこと、そして大半の子が柔道衣を持っていないことに私は驚きました。それでも準備体操や受身の練習、投技の打ち込み(反復練習)は普段着でこなし、乱取り(試合形式の練習)は柔道衣を数人で共有して順番におこないます。柔道場は簡素なつくりで、窓枠はあるものの窓ガラスはなく、畳はだいぶ傷んだ状態で種類の違うものをいくつか組み合わせて使っていました。
そんな状況の中でも笑顔を絶やさず、楽しそうに柔道をする子どもたちの姿をとおして、私は柔道の本当の魅力を教えてもらったような気がしました。彼らと毎日一緒にいたい一心で、結局日本に帰るまでの五日間、宿泊先のキャンディから往復三時間かけてその学校に通いました。そして帰国後、母校の厚木高校柔道部の先輩方に呼びかけてリサイクル柔道衣を合計で20着ほど集めて、EMSの船便で現地に送りました。
スリランカ再訪
スリランカ訪問の翌年、私はJICA海外協力隊として日本を離れたこともあり、現地との交流はしばらく途絶えていました。しかし今回、仕事の都合がつき、5月下旬に5日間の休みを取れたため再訪を思い立ち、共通の知人を頼り音信不通となっていたDissa先生と連絡を取ることに成功、ガンポラの子どもたちに柔道衣を届ける旅に出ることを決意しました。改めて地図を確認すると学校はこんな辺境にあり、旅のほとんどは移動時間になってしまいそうでしたが、12年ぶりに学校を再訪するため、3泊5日の強行スケジュールを立てました。今回は新たに手に入れた子ども用サイズの柔道衣10着、自分の柔道衣5着、そしてJUDOsからいただいた子ども用の帯をキャンプ用の大きなバッグに詰め、手荷物許容量の23kgにおさめて持参します。
スケジュール
5/25(月)出発前日
東海大学湘南キャンパスにあるJUDOsオフィスに伺い、子ども用サイズの帯をいただく。
5/26(火)一日目
朝6時出発。飛行機が大幅に遅れ現地到着が午後10時(日本時間で翌午前1時30分)となる。
5/27(水)二日目
午前中ガンポラへ移動。午後に道場を訪問、柔道衣受渡しのセレモニーと練習をおこなう。
5/28(木)三日目
午前中に別の学校でおこなわれていた運動会(クリケット)を見学。午後に道場で練習。
5/29(金)四日目
朝9時、電車でガンポラ発。昼過ぎにベヤンゴダでバスに乗り換え空港へ。夜8時の便に乗る。
5/30(土)五日目
朝9時、成田空港着。午後1時頃、自宅に到着。
持参した柔道衣
成田空港からスリランカへ
スリランカの空港周辺からガンポラへ
ガンポラ中心地から学校へ
12年ぶりの再会
飛行機の機材トラブルで成田空港出発が4時間半遅れ、初日から計画どおりにはいかないことを痛感しました。さらに想定していたよりも荷物が大きくなってしまったため、ガンポラへの往路は公共交通機関を使っての移動はあきらめ、「PickMe」というスリランカ版の配車アプリで車を空港近くの宿に呼んで向かいます。いつでもどこでもすぐに車を呼ぶことができるサービスが、(あまり時間どおりに物事が進まない)スリランカで浸透していることに驚き、時の流れを感じましたが、ガンポラ到着後にDissa先生と再会し、彼が運転するスリーウィラーの後部座席で吹き込んでくる風を感じながら山のほうへ走っていくと、懐かしさと、ここは以前と変わっていないのだなという安堵のような気持ちが込み上げてきました。
ガンポラの街
学校に着くと、子どもたちが道場に続く道の両端に立って待ってくれていました。さすがに12年も経つと子どもたちの顔ぶれは変わっていますが、学校や道場の建物は変わらないままです。 その後、学校の先生方や近隣の柔道の指導者が集まって柔道衣や帯の受け渡しセレモニーをおこない、一日目の練習がスタートしました。以前より柔道衣の数は増えたように見えましたが、それ以上に子どもたちの数が多く、まだまだ行き渡っていない状況です。普段着のまま、そして一つの柔道衣を二人、もしくは複数人で共有しながら練習をおこなっている様子は12年前と同じままでした。
柔道衣と帯の受け渡しセレモニー
練習スタート、準備体操、ウォーミングアップや受け身から打ち込みへ
普段着での練習
打ち込みを受けた後、着ていた柔道衣を相手に渡して打ち込みをおこなう様子
二日目はリクエストに基づいて、技術指導を中心に行ないました。スリランカは北海道の約0.8倍の広さに8つもの世界遺産を有する観光立国ですが、ガンポラはこれといった見どころがないため観光客を見かけることは少なく、子どもたちは外国人に慣れていません。最初は人見知りで恥ずかしそうにしていましたが、柔道で一緒に汗をかいていると、どんどん人懐こい笑顔を見せてくれるようになりました。今回はたった一日半の滞在でガンポラを後にしなくてはなりませんでしたが、また来ることを約束し、翌日、帰路につきました。
今回はJUDOsからも帯をご提供いただき、短いスリランカ滞在の様子を「海外からの柔道指導だより」として寄稿させていただきました。子どもたちとの約束をいつ実現することができるかわかりませんが、またいつかガンポラを訪れることができたらいいなと思っています。
JUDOsでは海外で柔道指導をしている方々の活動記を紹介しています。自分の活動を発表したいという方は事務局までご連絡ください。