JUDOsでは、海外で柔道指導者として活躍されている方々の声をお届けする「海外からの柔道指導だより」を掲載しています。
ミャンマー・ネピドーで柔道指導を行っている平沼大和さんからの活動報告です!
めんでん 柔道記
〜4,364km離れたミャンマーの地でvol.14〜
※めんでん:漢字表記でミャンマーのことを指す。旧ビルマ
さて、2025年も残すところあと少しとなりました。ミャンマーでは、仏暦に基づく新年が4月に訪れるため、西暦の12月31日には一応お祝いムードはあるものの、日本のような年末独特の高揚感はあまり感じられません。それでも、この1年を無事に終えられそうなことに感謝しつつ、気を緩めず最後までやりきりたいと思います。
今回の巻では、10年に1度開催されるという(正式な由来は定かではありませんが)ネピドーでのスポーツフェスティバルについて取り上げます。この大会では、多くの成果を得ることができました。私がミャンマーに赴任して約2年が経ちますが、これまで指導してきた生徒たちが目に見える成長を遂げ、さらに結果にも結びついたことは大きな喜びです。また、新しい人材を発掘できたことも、今後の発展に向けた大きな収穫となりました。
さらに、この大会を通じて、2025年以降に向けた柔道の普及と発展に関する議論を進める中で、多くの要人と会い、新たなコネクションを築くことができました。これらのつながりは、柔道のさらなる振興だけでなく、ミャンマーにおけるスポーツ全体の発展にも寄与するものと確信しています。
今回のVOL.14では、このスポーツフェスティバルを振り返るとともに、2025年からスタートする新たな取り組みについて詳しくお話しします。ぜひ最後までお付き合いください。
大会の振り返り:成果と選手の成長
今大会では、指導してきた選手たちが素晴らしい結果を残しました。特に60kg級、57kg級、63kg級の3名が安定した実力を発揮し、見事に優勝を果たしました。特筆すべきは、60kg級と57kg級の選手が、これまで勝てなかった相手との決勝戦を一本勝ちで制したことです。新たな選手が加わる中で切磋琢磨し、競争の中で大きく成長したことが、結果に表れた試合でした。また、団体戦でも個々の力が発揮され、チームとしての底力が見えた試合になりました。さらに、寝技のレベルが全体的に向上しており、日々の練習で培った技術の成果が試合に反映されていました。
正直なところ、今回成果を出したこの3名の選手たちは、私がミャンマーに来た当初は、将来的な可能性が高く評価されていた選手ではありませんでした。特に、ミャンマー柔道連盟の役員からは、競技を続けること自体が難しいのではないかという評価を受けるほどの状況でした。しかし、彼らはその中でも諦めず、日々の稽古に真剣に取り組み続けてきました。その積み重ねが、今回の成長と成果につながったのだと強く感じています。
この結果を目の当たりにして、私自身も改めて「日々の積み重ねの大切さ」と「その努力を長く続けることの力」を痛感しました。選手たちが私の指導に信じてついてきてくれたこと、そしてそれを継続してくれたことに心から感謝しています。同時に、指導者として選手の可能性を信じ続ける姿勢の重要性を再確認しました。
これからも、選手たちが自分の可能性を信じ、さらに大きく成長できる環境を整えていきたいと思います。
投の形の競技中の写真
柔道普及に向けた新たな可能性
今回の大会を通じて、ミャンマーでの柔道普及に向けた新たな可能性が見えてきました。調査と議論を進めた結果、特に14歳から18歳のジュニア世代の育成が非常に重要であることが分かりました。この世代は競技者としての基礎を築く大切な時期であり、ここでの取り組みが今後の成長を左右します。
ミャンマーにはスポーツ省が管轄する体育学校(Institute of Sports and Physical Education)があり、全寮制で生活面やトレーニング施設の提供など、非常に手厚いサポート体制が整っています。例えば、朝1時間のトレーニング、午後2時間の柔道トレーニングが可能で、日本の学校に近い環境が整備されています。しかし、現状ではそのポテンシャルが十分に発揮されていないと感じます。特にランニングを中心としたトレーニングや、基礎基本に重点を置かない練習が行われており、これを改善しなければ選手の成長は難しいと痛感しました。
そんな中、体育学校の先生方や校長先生との協議が進み、14~18歳の育成における基礎練習の重要性について理解を共有することができました。これを受けて、2025年からオンラインを活用した協力体制を築く準備が整いました。この取り組みが実現したのは、私と柔道の先生方だけの力ではなく、校長先生をはじめとする関係者の皆さんが柔道の可能性に共感し、協力してくださったおかげです。この協力体制をさらに深め、ジュニア世代の成長を支える基盤を構築していきたいと思います。
農業大学での柔道クラブ設立の可能性
また、今回の大会中にはミャンマーの農林水産省副大臣が視察に訪れ、直接お話しする機会をいただきました。その中で、ミャンマー国内にあるいくつかの農業大学にて柔道クラブを設立する構想が持ち上がりました。競技柔道だけでなく、生涯柔道や身体を動かす手段としての柔道を広げることで、柔道に携わる人を1人でも増やすことは、柔道普及の観点から非常に意義深いと感じています。
しかし、このプロジェクトを実現するためには、さまざまな壁を乗り越える必要があります。特に、施設や指導体制の整備、そして継続的な支援を確保する仕組みが課題です。さらに、時の流れや運にも恵まれる必要があると感じています。それでも、できる限りの準備を整え、関係者と力を合わせて取り組むことで、この構想を現実のものとしたいと思います。このプロジェクトが実現すれば、柔道を通じてさらに多くの人々とつながり、新たな可能性が広がる未来が描けるのではないかと期待しています。
平沼道場の新設に向けて
さらに、大会を通じて「平沼道場」の新たな展開が始まりました。ヤンゴン、マンダレー、モロミャイ、そしてエヤワディ地方のミャウミャに1つずつ、計4つの道場を設立する計画が具体化し、2025年1月1日から指導を開始する予定です。現在は、トレーニングメニューや方針のすり合わせ、オンラインを活用した協力方法の模索、指導者の人材集め、柔道用具の準備など、設立に向けた準備を進めています。
この中で特筆すべきは、ミャンマーに駐在している日本企業の方々のご協力です。JUDOs様の柔道着運搬プロジェクトに賛同いただき、現段階で25kg分の柔道着を寄付していただきました。これらはエヤワディ地方のミャウミャに既に渡すことができました。さらに、多くの企業の方々が今後も支援を続けてくださるとのことで、順次、他の地域にも柔道着を届ける予定です。
また、ミャンマー国内での柔道着の自給体制を構築するため、現地の工場と話し合いを進め、柔道着の現地生産にも取り組んでいきます。これにより、柔道普及に必要な物資を安定的に確保し、長期的な発展につなげたいと考えています。
寄付していただいた柔道衣を現地の先生にお渡ししている様子
柔道普及への情熱と課題
JUDO普及に向けた具体的な活動や、ジュニア世代を対象とした育成プロジェクトなど、ミャンマー柔道の発展にこれからも取り組んでいきます。しかし、現職のナショナルチーム監督としての責務を果たしながら、これらの活動にどのように時間を確保するかが大きな課題となっています。さらに、金銭的な問題も解決すべき重要なテーマです。
これまで続けてきた活動、そしてこれから取り組むすべての活動は、自分自身の情熱だけを原動力として進めています。資金は自らの身銭を切って賄っており、これらの活動に取り組んだからといって自分に収入が入るわけでは一切ありません。それでもなお、柔道を通じてミャンマーの選手や地域社会に貢献したいという思いが、私の行動を支えています。
このような状況の中でも、活動を持続可能にするために、優先順位を明確にし、スケジュールと方針をしっかりと確立することを心がけています。また、各プロジェクトには信頼できるリーダーを任命し、責任を分担する方法を模索しています。さらに、オンライン指導や現地リーダーの育成を活用することで、より多くの関係者と連携し、協力体制を強化していく計画です。
柔道を普及させるための活動は、決して簡単ではなく、多くの課題を抱えていますが、その先に見える可能性は非常に大きいと信じています。時間的、金銭的な制約の中でも、持続可能な形でプロジェクトを進め、次の世代に柔道を通じた希望と成長の場を提供したいと考えています。
こうした活動を続けるためには、私一人の力だけでなく、多くの方々の協力と支援が必要です。これからも、柔道を愛する皆様や地域の関係者、そして世界中の柔道仲間と力を合わせ、ミャンマー柔道の未来を切り開いていきたいと思います。
おわりに
柔道を通じてミャンマーの人々に貢献することは、私自身の大きな挑戦であり、同時に大きな喜びでもあります。これまでの活動の中で、多くの課題と向き合いながらも、選手たちの成長や柔道普及の手応えを感じるたびに、この道を選んで良かったと心から思います。
もちろん、これから取り組むプロジェクトには時間や資金など解決すべき課題が山積していますが、柔道が持つ「可能性」を信じ、関わる全ての人々と力を合わせて前進していきます。柔道は単なるスポーツではなく、人を成長させ、地域を豊かにする力があると確信しています。
このレポートを読んでくださった皆様にも、ぜひこれからの活動を見守り、応援していただければ幸いです。次回は、さらに進展したプロジェクトや新たな挑戦についてご報告できるよう、日々努力を続けてまいります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
平沼大和(ひらぬまやまと)
1997年北海道生まれ、2023年ミャンマー柔道連盟ナショナルチーム代表監督。中央大学商学部会計学科卒業、体育連盟柔道部所属。柔道実業団選手としてスポーツひのまるキッズ協会に所属の後、カナダ柔道連盟ナショナルチームアシスタントコーチを経て現職。
JUDOsでは海外で柔道指導をしている方々の活動記を紹介しています。興味のある方は事務局までご連絡ください。