JUDOsでは、海外で柔道指導者として活躍されている方々の声をお届けする「海外からの柔道指導だより」を掲載しています。
西アジア南西のアラビア半島にあるUAE(アラブ首長国連邦)でUAE柔道連盟ジュニア・カデットコーチとして活動をしている芦田弘毅氏からの活動報告最終号です。
シュクラン日記 ~No.23~
シュクラン日記23号は、2024年の年が明けて最初の、そしてこれが最後のシュクラン日記となります。ここまで約3年間、シュクラン日記をお読み頂き本当にありがとうございました!このシュクラン日記を通して少しでもアラブ首長国連邦、そして当地の柔道事情を知って頂けたなら心から嬉しく思います。最後のシュクラン日記も是非、楽しんでお読み頂けますと幸いです!
第7回柔道日本大使杯
2024年2月3日、UAE柔道連盟、在アラブ首長国連邦日本国大使館、ジャパン石油開発株式会社(JODCO)共催の第7回柔道日本大使杯がFatima Bint Mubarak School Sports Hallにて開催されました。出場者数は男女合わせて108名、そしてスペシャルオリンピックスUAEの4名の計112選手の参加となりました。
大会バナー
大会の様子
同大会は、UAEへの柔道の普及と次世代の柔道選手育成に寄与することを目的とし、今回はカデット世代(15歳~17歳)を対象に大会が開催されました。また本大会には磯俣秋男駐アラブ首長国連邦特命全権大使、ジャパン石油開発株式会社(JODCO)萩原洋アブダビ所長、一般財団法人日本国際協力センター(JICE)金森篤也アブダビ事務所長、そしてUAE柔道連盟よりモハメドジャシミ事務局次長が出席されました。
中央右側から磯俣大使、萩原所長(JODCO)、右端:金森所長(JICE)、左端から3番目:モハメドジャシミ事務局次長
今大会は、男子のみならず、第4回大会ぶりの女子の部が開催されました。実はUAEにおいては、コロナパンデミック後、女子選手がめっきりいなくなってしまい、これまで女子の大会が開催できないでいました。しかしコロナの感染拡大も終息を見せ、主にシャルジャ首長国、フジャイラ首長国での女子柔道選手普及が加速していった結果、今回カデットの女子の部を開催することが出来ました。出場選手数は21名と、まだ決して多くは無いですが、柔道普及の兆しが見えた大会になったと思います。またスペシャルオリンピックスUAEからも4選手がエキシビジョンマッチを行いました。この4選手は、私が1から育てた選手なので、強い思い入れがある一方、ID柔道はUAE国内ではまだまだ認知度が低く、現段階では選手総数もこの4名のみです。そういった背景もあり、UAE国内でも柔道を披露する場を用意してあげたいと思い、本大会でのショーケースを決めました。エキシビジョンマッチ本番では、彼らは緊張するどころか、活き活きと技を掛け、彼らの持ちうる能力を披露できたと思います。また彼らの柔道が、会場にいるすべての人を魅了し、大いに盛り上げてくれました。本当に良く頑張りました!
男子試合の様子
女子の大会の様子
スペシャルオリンピックス選手入場
サーリム君の袖釣込腰
第7回柔道日本大使杯は無事に大会を終えることが出来ましたが、大会開催に至るまでは本当に大変な道のりでした。本来なら東海大学柔道部から著名ゲストをUAEに招待し、大会内でのデモンストレーションや、現地柔道クラブ視察、柔道指導等を行って頂く事が、大使杯の醍醐味の1つでもあるのですが、今回、UAEに来て頂けるゲストが決まっていたものの、UAE柔道連盟内のトラブルにより招待出来なくなってしまいました。また大会に係る経費負担も、当初の話し合いと食い違う部分が出てきた他、予定していた会場が使えなくなるという問題もありました。その他、細々とした問題が浮上してくる中で、大使杯中止の可能性すらあるなと危惧していました。しかしその度に、在アラブ首長国連邦日本大使館が、UAE柔道連盟との幾度とない話し合いを持ってくださり、そのお蔭で大会開催にまで漕ぎ着けることが出来ました。私は過去3回、日本大使杯に携わらせて頂きましたが、これほどまでに準備が大変だったことは無いと思います。大会が開催出来て本当に良かったと感じると共に、尽力してくださった皆さんには本当に感謝しています!!有難うございました。
以下、第7回柔道日本大使杯に関する(在外公館長表彰を含む)ニュース記事等
①アラブニュース(日本語)
②在アラブ首長国連邦大使館ウェブサイト(日本語)
在外公館長表彰
第7回柔道日本大使杯内にて、磯俣秋男駐アラブ首長国連邦特命全権大使より、在外公館長表彰を執り行って頂きました。在外公館長表彰とは、「日本と諸外国との友好親善に大きく貢献した個人や団体に授与される賞」です。私はUAEにおいて約3年間の柔道指導を行いましたが、コロナ禍、練習環境の不整備等、環境要因に大きく左右され、柔道普及を行うには厳しい時期にUAEに来と思います。しかしその中でも、多くの出会いがあり、沢山のサポ―トを頂きながら、ゆっくりですが着実に歩を進めることが出来た3年間だったとも感じています。1人では成し遂げられないことも多くありましたが、沢山の激励・サポートは活動を行う上での大きな活力になりました。この表彰は、私に対してのみならず、UAE当地で柔道普及を行うにあたって私に関わってくださった皆さんに宛てられた表彰だと感じています。
また今思い返せば恥ずかしい話なのですが、約1年前の2023年1月、大使公邸で行われた賀詞交換会に出席させて頂いたのですが、新年の挨拶を行う場で、磯俣大使に向かって「もうやめたい、辛いです。」と、ご相談させて頂いたのを今でも鮮明に覚えています。当時柔道連盟内で人間関係のトラブルがあったのに輪を掛け、練習環境も無くなってしまい、私なりにあちこちの施設に連絡をし、借りられそうな場所をピックアップしては柔道連盟に提案したものの、なかなか取り合ってもらえず、心が潰れてしまいそうな時期がありました。今思えば、賀詞交換会という場で、それも磯俣大使に向かって「辞めたい、辛い」なんて、正気では無かったと思います。しかしそれにも関わらず、磯俣大使は親身に話を聞いてくださり、「芦田君がUAEにいるのと、いないのでは全然違う。大使館も全力でバックアップするから、辞めることは考えないで。」と仰ってくださり、それ以降は、改めて前向きに活動に取り組もうと思えるようになりました。私が今日まで柔道指導に邁進出来たのは、間違いなく磯俣大使のお言葉あってこそだと思います。その磯俣大使に私の活動を見届けて頂き、そして認め下さったことは、本当に光栄であり、名誉な事だと感じています。またここまで私を成長させてくれた「柔道」や「東海大学」に対しても、柔道普及を通じて、ほんの少しでも恩返しが出来ているなら、心から嬉しく思います。
私はこれから、また新たな道を歩み始めますが、どんな試練があろうとも、この表彰に恥じない生き方を、誰かの役に立つ人間であり続けたいと思いました。
磯俣大使より表彰状と盾を授与頂きました
アブダビでの最後の練習
2月6日がアブダビでの最後の練習となりました。畳の上で、私が一番長く時間を過したのはアブダビの生徒達であり、彼らとは多くの思い出を育んできました。指導者として時に怒ることもありましたが、一方で生徒に弱音を吐くこともありました。教え子であり、友達であり、兄弟のような存在ともいえる、そんな皆と多くの時間を過せたことは、かけがえのない財産となりました。
アブダビで柔道を教え始めた2021年は、練習に行けば1人、2人しかいないこともありました。また2022年には練習環境が無くなり、一時はどうなるのかと頭を抱えた日々もありました。しかし、今では写真のように、畳にギリギリ収まるくらいの人数になりました。国籍も皆それぞれ違って、本当に多様性に溢れた練習環境だったと思います。
私自らUAEを去ると決めたのに、これまで一緒に頑張ってきた皆と離れるのはやはり寂しく、辛いというのが率直な気持ちです。振り返ると彼らとの沢山の思い出が蘇ってくる中で、最後の練習では泣いてしまうかもしれないと思いながら、寂しさと共に練習に向かいました。しかし…思いの他泣き所が無く、意外とあっさりしていました(笑)「悲しいね、寂しいね」よりも「また会えるよね、UAE戻ってくるんでしょ?」「いや、皆が日本に来るんでしょ?」っと、そんなポジティブな会話が私たちらしかったです。最後の最後まで、皆が楽しそうに柔道に取り組んでいる様子が見られて、本当に幸せでした。
総勢10ヶ国の国籍からなる選手達
練習風景
雑談中
UAEに来る前は、青年海外協力隊柔道隊員としてウズベキスタンに派遣されていましたが、実はその時、コロナのパンデミックによる緊急帰国で、当時の生徒にはお別れも言えずに日本に帰国しました。その時の心残りは今でもあり、お別れを伝えることの大切さを身に染みて経験していたからこそ、アブダビの生徒たちには自分の思いをしっかりと伝えた上でお別れしようと決めていました。とはいえ何を伝えてもやはり寂しさは拭えないものですが、ウズベキスタンでは出来なかった、「さようなら」を言い合えることの幸せは噛み締めることが出来ました。きっといつかまた再会できることを信じて、「またね」も付け加えました。
彼らが、これからも柔道を好きでい続けてくれること、「日本に行くことが夢だ」と語ってくれた生徒といつか日本で会う事、そして皆が誠実に逞しく成長してくれることを心から願っています!
最後に…
2021年4月から2年10カ月の期間、本当に沢山の方々と出会い、時には多大なるご協力やご助言を頂きながら、活動に取り組んで参りました。スペシャルオリンピックスUAEのコーチとしてベルリンの世界大会に帯同させて頂けたことや、UAEナショナルチームとしてコンゴ民主共和国という、普通であれば行くことが無い国に行けた事、中矢力さんにUAE訪問・柔道指導をして頂けたこと、そしてアブダビ皇太子に柔道披露をさせて頂けたこと等、大きなものから日々の小さなものまで、沢山の思い出が出来ました。活動に行き詰れば、私の前任である原口直也さんや認定特定非営利活動法人JUDOsの小澤浩子さんに相談することもありました。JUDOsの皆さんには、柔道日本大使杯への協賛やアブダビ日本人学校に対する柔道着支援でもご援助頂きました。上水研一朗先生から時折頂くメールを読んでは、尊敬する恩師が見守ってくれているのだから、ここで腐ってはいけない、と活動に励むうえで大きな活力となりました。
UAE当地においても、在アラブ首長国連邦大使館、広報文化班長の山村真智子さんと、ジャパン石油開発株式会社(JODCO)マネージャー(External Affairs & CSR)の山田隼人さん、このお二方の心強いサポート無くして、私は直向きに活動に取り組むことは出来ませんでした。山村さんはいつも親身に寄り添ってくださるだけでなく、練習環境の確保や、柔道日本大使杯の運営、UAE柔道連盟との対話等、全ての場面において熱心に関わってくださいました。一方山田さんは、コミュニケーションを凄く大切にしてくださり、勝手ながらメンターとして頼っていたのですが、そんな山田さんからはいつも的確な助言を頂き、私の悩みや不安を解消してくださいました。この両人は「我々の職務だから当然です。」「大したことはしていないです。」と仰ってくださいますが、このお二人に沢山救われ、また多くの学びを頂きました。この場をお借りて、心から感謝をお伝えしたいです。
この他にも本当に、本当に、沢山の方々のお蔭で、私はここまで頑張る事が出来ました。「人は一人では生きていけない」とよく言いますが、正にその通りだからこそ、支えてくださった皆さんに少しでも恩返しができたらと、誠実に謙虚に、そして誰かのためになる活動をしたいとこれまで考えてきました。その思いが、UAEで指導してきた選手たちにも伝わってくれていると嬉しいなと思います。
UAE柔道はまだまだ発展途上です。柔道普及、強化を推し進めるにあたって様々な問題もあります。加えて文化的背景から国際的に活躍する選手を育成するのは並大抵ではありません。しかし「柔道の精神」を育み、世を補益する人材の育成は十分に可能だと思います。
その為にも、UAE国内で柔道が更なる普及の道をたどって行く事、そして、そこに日・UAEの柔道交流が続いていく事を心から願いたいと思います。
最後になりますが、この約3年間、私の活動を見守って下さった皆様、支えてくださった皆様、本当にありがとうございました。そしてこれからもUAE柔道に興味・関心を持ち続けて頂けます事を願っています。
芦田弘毅