JUDOsでは、海外で柔道指導者として活躍されている方々の声をお届けする「海外からの柔道指導だより」を掲載しています。
アフリカ東部のケニアで国際柔道連盟の柔道指導者として活動をしている歌代勇祐さんからの報告です。
ハクナ・マタタ・ウタタン日記 No.5
どうも、たいへんご無沙汰しております。ケニアで柔道指導をさせていただいております、歌代勇祐(うたしろゆうすけ)です。
9月になりました。日本でお過ごしの皆様は連日の熱帯夜を乗り切り、一息ついた頃でしょうか。それとも粘り強い残暑を相手に、決勝戦ゴールデンスコアといったところでしょうか。
え?ケニアですか?こちらでは6月から9月は冬とされています。全く暑くないです。冬といっても、アフリカの冬です。半袖では少し肌寒いくらいの気温です。上衣を一枚羽織って過ごしています。はい、相変わらず快適です。
国際大会結果報告
さて、前回投稿させていただいたのが昨年末の12月です。この原稿を書いているのは2025年の9月です。9か月も経ってしまいました。赤ちゃんは生後9か月もすれば、つかまり立ちをはじめるようです。言葉の真似もはじまるようですね。いわゆる9か月革命です。…え?何の話?話が脱線してしまいました。脱線も何もまだはじめてもいないか。余談はさておき。
9か月を取り返すべく、さらっと9か月間の大会の結果報告をさせていただきます。
●Casablancaアフリカンオープン2025
1月にモロッコで行われたアフリカンオープンに参加しました。金メダル1個と銅メダル1個を獲得しました。出場選手は10名と少なかったものの、1名は念願の金メダルを手にすることができました。ほかの選手たちもメダルには届きませんでしたが、力をつけてきた印象を受けました。
●Tbilisiグランドスラム2025
3月にジョージアでのグランドスラムに参加しました。シニア選手10名が出場し、全員が初戦敗退でした。世界のトップレベルは、高かったです。
●Abidjanアフリカ選手権2025
4月にコートジボワールでのアフリカ選手権に参加しました。11名が出場し、全員が初戦敗退でした。アフリカ選手権は、アフリカンオープンよりも獲得できる世界ランキングポイントが高く設定されています。レベルの高いアフリカ大会です。アフリカンオープンでやっと結果を出し始めたケニア柔道にとって、厳しい戦いとなりました。
●Budapest世界選手権2025
6月にハンガリーで世界選手権が開催されました。ケニアの女子選手1名が出場枠を獲得しました。初戦でトップレベルの選手と戦い、敗退しました。彼女はケニアを背負ってよく戦いました。
●Pretoriaアフリカンオープン2025
同じく6月に、南アフリカでのアフリカンオープンに参加しました。出場選手は3名と極めて少なかったものの、銅メダルを2個獲得できました。半年ぶりのアフリカンオープンではメダルを獲得できたものの、満足できる結果ではありませんでした。
以上が、ここ9か月間の国際大会での結果です。それぞれの大会について詳しく書きだしたら止まらなくなりそうなのでここでやめておきます。世界選手権、グランドスラム、アフリカ選手権と、レベルの高い大会に出場し、連敗をしておりました。はい、その通りです。落ち込んでいました。ご報告が遅れました。
ケニアの柔道選手たちはよく頑張っています。しかしレベルの高い大会となると、はっきり言って、まだまだです。全く歯が立たずに終わってしまう選手もいます。彼らは国内ではトップ選手であり、確かに力をつけています。でもまだ大きな差があります。悔しいです。
僕がケニア柔道連盟の一員として過ごす時間が長くなるにつれ、組織の問題が以前よりも見えてきました。選手たちはもっと練習をして強くなりたいと望んでいます。しかし連盟が十分な環境を提供できていません。連盟が見通しを立て、早く動いていれば起こっていない問題が多々あります。しわ寄せは選手たちにいってしまいます。こういった問題を少しでも軽くできるのが、外から来た指導者なのかもしれません。奮闘していますが、なかなか変わらず試行錯誤の日々です。
なんだか愚痴のようになってしまいました、失礼しました。
さて、気を取り直してタイピングを続けます。
ケニア国内での影響
アフリカンオープンではメダルを獲得できるようになり、ケニアでのテレビやラジオに呼んでいただく機会が増えてきました。
ケニアには柔道を知らない人が多くいます。メディアでの放送は、柔道を広めるいい機会です。ありがたいです。
柔道の説明をしているようです。英語へたくそなアジア人が、拙い英語で一丁前に語っちゃって笑っちゃいますよねwww(全然笑えない。勉強しろ)
国営放送です。ケニア全土に放送されます。だからなのか、教え子たちは緊張気味です。お調子者の子が、ずいぶん大人しくなっちゃったりして。(↓左の子)
こんな顔しませんよ、この子。笑っちゃいます。
一方、外国人の僕はむしろ気楽です。日本人の知り合いに見られることはほぼないので、こういうのは吹っ切れてやれます。
貴重な経験をさせていただいています。ありがたいです。
ケニアの柔道クラブ
8月、普段使っている柔道場が使えなくなりました。サッカーの国際大会があったようで、ナショナルスタジアムの敷地全体が入場禁止になってしまいました。1か月間。え? 丸々1か月?1か月間も!?なんど聞き返しても、「ワンマンス」でした。
8月はケニアの学校が休みの時期です。私たちにとって、とても大事な期間です。何とかならないか交渉しました。なりませんでした。
ぶつかってばかりじゃダメで、ひいてばかりでもダメなので。代わりに、首都ナイロビの近くにある柔道クラブの練習に行くことにしました。
っということで!
突然ではございますが!みなさんも気になっているであろう、アフリカケニアのローカル柔道クラブを、紹介しますっ!!
①ギトトゥア柔道クラブ
まず1チーム目は、ギトトゥア柔道クラブ。首都ナイロビの北部に位置するキアンブ郡。そこにあるギトトゥア小学校で活動をしている柔道クラブです。
小学校の教室にマットを敷いて、練習をしています。
室内は…めっちゃ教室でした。黒板も掲示物もありました。畳ではないけれど、畳に近いマットを使って練習をしています。柔道衣の数がケニア国内ではわりと揃っている方のチームです。
コーチが黒い道着を着ていました。頭…なにが? と思ったけど、柔術衣のようです。有名なブランドなのでしょうか。存じ上げず、失礼しました。
こちら教室の黒板です。よく見ると、日本語の数の数え方が黒板に書いてあります。
10,000㎞も離れたアフリカの国で、日本語を勉強している子がいる。なんだか嬉しいです。
②カジアドノース柔道クラブ
2チーム目です。首都ナイロビの南側に位置するカジアド郡にある柔道クラブです。市街地にある建物の4階の一室を借りて練習をしています。
こちらの道場は、畳があります!ですが…
狭いですねー。
この人数で練習をするには、さすがにちょっと狭いのでは? 乱取り練習をするには、二組が限界です。それも壁やもう一組にぶつからないように気を付けながらの練習になります。大人の選手が思い切り練習するには、あまりにも狭すぎるのでは。
ですがここは、ケニアの中でもトップクラスの柔道クラブです。現在ケニア代表として活躍をしている選手の多くが、ここの道場出身です。彼らは今もここで練習をしています。
③カジアドスターズ柔道クラブ
3つ目、最後のチームです。このチームも、カジアド郡にある柔道クラブです。こちらもケニアを代表する選手が多く所属するチームです。1月にモロッコで開催されたアフリカンオープンで金メダルを獲得した選手も、ここで普段練習しています。そんな力のある柔道クラブの道場はこちらです!
こちらでは壁にぶつかる心配はありません。広いですね~。いや道場というか外やん。
休みの日には近所の子どもたちが集まって、一日を過ごすような場所になっているようです。柔道クラブが子どもたちの遊び場になっているなんて、素敵ですよね。
近所の子です、かわいいですね~。ケニア人からすると日本人の髪は異質なので、気になるようです。よく触られます。
集まってきました。後頭部をかき回されています。仲良さげでしょ?
実際には小さい子どもたち、スワヒリ語しかわかりません。だから会話になっていません。仲良しに見えるだけです。スワヒリ勉強しようかしら。
以上が、ケニアのローカル柔道クラブの紹介でした。
ご覧いただいたように、どこの道場も十分な広さはありません。柔道衣が足りなくて、上衣だけを使っている子もいます。同じ柔道衣を使いまわしている子もいます。国内トップレベルの柔道クラブであっても、こういった状況です。首都からさらに離れた地域では、さらに足りていません。
ですが今、少しずつ日本の柔道衣がケニア人柔道選手の手に渡っています。
以前、柔道衣の寄贈について声をかけさせていただいた際、たくさんの柔道衣が集まりました。現在日本からケニアに輸送する手段がないので、ケニアと日本を行き来する際に私たちが預け入れ荷物として運んでいます。少しずつではありますが、確実にケニアに届いています。皆様からいただいた柔道衣は、ケニアで大活躍中です!
この場を借りて、感謝を申し上げます。
柔道とは関係ないですが…
最後になりました。「柔道には関係ないですが」のコーナーです。今回は、「ゲテモノ」の話です。
ここケニアはアフリカの国です。あまり馴染みのない方々は、とんでもない食文化を想像するかもしれません。昆虫や爬虫類など、いわゆる「ゲテモノ」が一般的だと思われていませんか? つい先日教え子と話していて、ゲテモノの話になったので紹介します。
ケニア人教え子「先生、私知ってるよ。あなたたちはナメクジやヘビを食べるんでしょ!」
僕「いやいや食べるわけないじゃん!」
ケ「いいや、私TikTokで見たもん!確かに食べてた!」
僕「いやいや、それを食べる国はアジアにあるかもしれないけど。僕たち日本人は食べないよ。」
ケ「えー、本当に?」
僕「本当!絶対に!」
ケ「じゃあ、タコは?」
僕「タコは食べるよ、美味しいじゃん」
ケ「うげっ。じゃあカニは?」
僕「カニも食べるよ。カニ大好き。」
ケ「うわっ!ほらみろ!ゲテモノ食いだー!」
残念ながら、「ケニア人はこんなゲテモノを食べています!」という話ではありません。
アフリカには、巨大イモムシなんかを食べる地域もあるようですが、僕はまだ見たことがありません。教え子たちもそんなもの食べないと言っているので、どこかの山奥や民族に限ったことなのかもしれません。少なくとも僕がかかわるケニア人は、ゲテモノと呼ばれるようなものは誰も食べません。
むしろ彼らからすると、ゲテモノ食いは日本人のようです。教え子に引かれました。納得できません。確かになじみのない人からすると…甲殻類は昆虫に似通っている部分もある?タコはぬるぬるしててナメクジやヘビっぽい?のかもしれません。
思わぬカルチャーショックがあったという話でした。
締めくくりに写真を一枚ご覧ください。
こちら、ハンガリーに遠征した際に見かけた銅像です。ヨーロッパはおしゃれな建築や銅像が街中にあって、観光にはもってこいですよね。
ケニア人と歩きながら、このワシントン像を見つけたんです。これワシントン像なんですけど。下にいる鳥、「ワシ」じゃないですか?で、この像全体が「ワシントン」だとすると…人間の部分は「ントン」ということになりますよね!!
などというエベレストよりも高度なジャパニーズジョークを思いついたのですが、ケニア人に一から説明してウケる気がしなかったので言いませんでした。代わりにここで成仏させてください。
この一発で爆笑をかっさらって、今回の締めとさせていただきます。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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