JUDOsでは、海外で柔道指導者として活躍されている方々の声をお届けする「海外からの柔道指導だより」を掲載しています。
ミャンマー・ネピドーで柔道指導を行っている平沼大和さんからの活動報告です!
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めんでん柔道記
〜4,364km離れたミャンマーの地で〜
作成日:2023/08/14
作成者:平沼 大和
時が経つのは早いものでミャンマーに来てから半年が経過しました。
振り返ると様々な思い出や出来事が大変多く素晴らしい経験をさせていただいております。6月23日日から続いております「めんでん柔道記〜4,364km離れたミャンマーの地で🇲🇲」も3回目を迎えることができ、投稿を通して平沼の活動を知っていただいたり、ミャンマーと関係があるとご連絡いただいたりと多くの方と繋がることができたことをこの場をお借りして感謝申し上げます。
さて、今回のテーマは先日開催された指導者向けセミナーについてです。
セミナーのスケジュール
今回のセミナーは前回、報告させていただいたSEA GAMEs(詳細は以下よりhttps://judos.jp/myanmar2/)より以前にミャンマー柔道連盟とスポーツ省の方々とお話を重ね続け計画・実現されました。私が考えるにミャンマーの柔道の現状は「基礎体力はあるが、技術的な面に関して発展の可能性がある。
特に柔道競技を行う上で求められる体の使い方(片足で立つ、瞬時に重心を落とすなど)やベーシックの技を重点的に取り組むべき」だと把握し、それらを解決するためには指導者の方を集めて技術・知識を共有する場が必要だということでセミナーを計画しました。
詳細は上記の通り、柔道の基礎と思われるムーブメント(回転運動や寝技の補強など)、講道館柔道で定められた五教の技の解説、「投の形」や最新のルール解説と幅広く行いました。恥ずかしながら昨年までは五教の技に関して、その存在を全く知らなくミャンマーに来る以前にお世話になったカナダ モントリオール「志道館」の中村浩之先生に教えていただき初めて存在を知りました。
先生はよく「柔道のコーチであれば選手であれば誰でもできる。本当に柔道の先生になりたければ専門家になりなさい」とおっしゃっていました。
そのお言葉を私なりに解釈した結果「先生になるためには柔道の技はもちろん、選手個人に合ったアドバイスや技の指導が必要でそれらを判断するためには専門的な経験と知識がなければならない。つまりはその選手の行先を知識、経験を元に思い描き導くことが先生の役目である。」というようことではないかと推測しました。
現役生活ではいかに自分のスタイルに適合し、いかに相手を投げることにフォーカスをして技の研究に励んでいたので知らない技も出来ない技も数多くありましたが、指導する立場になった現在は、どうすれば選手の実力を向上するかに集中しなければいけません。
そういったことを中村先生から教えていただき、そういった教えが現在の活動に活きていることを実感します。
ミャンマー柔道連盟所属審判員による「投げの形」の解説風景
セミナーの内容抜粋「寝技の補強」
セミナーを終えての評価は非常に良かったものだと感じます。実際に体を動かしてもらうことで、どこに発展の余地があるか。私の説明のどこに課題があるかなどの憶測が付くので、計画の大枠は外れずその場の状況に応じて指導ができたと思います。
その中でも特にこだわったことが柔道の基礎的な動作です。具体的に挙げられるものは、立ち技であれば、体の使い方や空中ないしは回転中に自分の位置を把握する力を養うために前転や後転、レベルが上がればヘッドスプリングや側転。
寝技であれば、寝技においての体の使い方を養うためにエビやしぼり(※道場によって呼び名の違いがあり。)、ブリッジ等が挙げられます。
私が考えるに柔道競技を行う上で基礎動作は必要不可欠だと考えます。
例えば寝技において相手に抑え込まれた際にエビやブリッジなどの基礎動作が不十分であればただただ、なす術もなく暴れるだけしかありません。
しかしそういった技術を知り、反復していれば相手の重心を崩すためにブリッジをし、生まれた自分と相手のスペースにエビを行い膝を入れるなどの逃げるための「技」が生まれるはずです。
つまりは、しっかりとした基礎動作という名の土台があるからこそ、その上に技術を積み重ねることができるということです。それは土台が不安定であれば技術も同時に不安定になるという逆説的にもなるため欠かすことのできないものだと強く思います。
今回のセミナーでは、基礎動作の意義やそれぞれの動作の目的/応用などを詳しく説明しました。
基礎動作「エビ」の練習中の風景
セミナーで教えられること/教えられないこと
現在の指導内容や自身の在り方は、私の師匠の中井祐樹先生(現 日本ブラジリアン柔術協会会長 兼 パラエストラ東京代表)の影響を受けています。
その中井先生の刊行されている著書の中から文を抜粋したいと思います。
「柔術は決して体系だったものではありません。もちろん書かれたものや整理されたもの、伝承されたものは多々ありますが、「これが正解だ」と言えるシステムはありません。体型や考え方などが人それぞれ違うのですから、人それぞれ柔術も通ってくるはずです。どんな柔術家であれ、実際に使っている技は先生から習ったものと自分で作ったものが半分ずつくらいなのではないでしょうか。パラエストラの選手に「ノーアームトライアングル」を使う人がいます。彼が試合で使うようになってから、他の選手にも広まっていきました。でもその技は私が教えたわけではありません。彼自身が考えて考えた末に生み出したものです。練習をしていると、不思議と教えていないことや教わっていないことが出てきます。私も各地のセミナーでたくさんスパーリングをしていますが、使っている技の7割5分から8割くらいはクラスで教えていない技です。クラスで教えるには至らないような細かな技がたくさんありますし、その場で思いつく細かなアドリブもあります。ですからクラスではフォローしきれないのです。
ですから全てを体系化することもできません。スパーリングの中でやっていることを説明することも、再現することもできません。技は相手があってのものです。相手が変われば形が変わりますから完全には説明しようがないのです。
特に説明が難しいのが、技と技の間です。技のつなぎ目の動き方、足の位置、何を考えているか等など。こうしたことの説明を試みている人もいますが、その他の多くの指導者は教えませんし、おそらく教えることもできないでしょう。でもそういうつなぎ目を埋められるかどうかが、うまくなるということなのではないかと思います。
トップ選手がセミナーで教えている内容もおそらく、その人がその時点で最高だと考えている技のはずです。参加者としては「こんなすごいシステムがあるのか!」と圧倒されてしまうかも知れませんが、彼ら自身も懸命に考え、微調整していったにすぎません。」(中井祐樹2018,248)
中井先生の教えは大変独特なものなので私の考えの原点を少しでも共有したく長くなってしまいましたが抜粋させていただきました。
やはり完璧な指導ということは非常に困難であるとつくづく感じます。
上記でも書かれている通り、技と技との間だったり、技の技のつなぎ目の動き方、足の位置、何を考えているかなど説明しきれない箇所があることは間違いありません。
それは指導に100点は存在しないという「指導の限界」と「無限の発展の可能性」を示唆しているのではないでしょうか。
指導者は万能ではないからこそ常にそれを把握・反省しなければいけない。
そういった指導をする上で大切なことを中井先生から学ばせていただきました。
その教えがあるからこそ現在は自分が積み重ねていた知識、経験、技術と言う名の手札を全て公開し選手個人がカードを選択していく。という指導スタイルになりました。
おわりに
今回のセミナーを通して多くの方々の教えが礎となっていることを実感しました。
稽古(けいこ)照今(しょうこん)(ふるきをたずね いまをてらす)自分自身の知識・経験はもちろん、先人たちが残してきた教えを大切にし懐古主義に陥ることなく今に焦点を当てる。
指導に100点は存在しないからこそ「指導の限界」と「無限の発展の可能性」を把握・反省し日々邁進する。
セミナーをする側に立ったからこそ見えた景色がありました。
本セミナーの修了書
参考文献
1.中井祐樹の新バイタル柔術/中井祐樹/株式会社日貿出版/2018年11月10日
2.希望の格闘技/中井祐樹/イースト・プレス/2014年8月7日
3.中井祐樹メソッド必修!柔術トレーニング 上巻/中井祐樹/ビーエービージャパン/2015年7月1日
4.中井祐樹メソッド必修!柔術トレーニング 下巻/中井祐樹/ビーエービージャパン/2015年8月1日
5.投の形/ 講道館/公益財団法人講道館/
6.INTERNATIONAL JUDO FEDERATION SOR Sport and Organization Rules/8.JULY.2020
7.柔道の技 分類と名称 Grouping&Names of JUDO WAZA 津村弘三 講義資料/津村弘三/公益財団法人講道館
8.公益財団法人講道館/http://kodokanjudoinstitute.org/access/2023/08/14閲覧
9.Hiroshi Nakamura /wikipedia/https://en.wikipedia.org/wiki/Hiroshi_Nakamura_(judoka)/2023/08/12閲覧
10.Yuki Nakai /Wikipedia/https://en.wikipedia.org/wiki/Yuki_Nakai/2023/08/12閲覧
11.全柔連TV/https://youtube.com/@JAPAN-JUDO/
12.講道館/https://youtube.com/@JAPAN-JUDO
注釈1 Webio辞書/緬甸/https://www.weblio.jp/content/2023/06/18
平沼大和(ひらぬまやまと)
1997年北海道生まれ、2023年ミャンマー柔道連盟ナショナルチーム代表監督。中央大学商学部会計学科卒業、体育連盟柔道部所属。柔道実業団選手としてスポーツひのまるキッズ協会に所属の後、カナダ柔道連盟ナショナルチームアシスタントコーチを経て現職。
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